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ぎしりと隣に加わる重みに、放って置いてくれよ、なんて可愛げのない思いと、確かな温かみに心から安堵してしまった相反する感情がぐるぐると渦巻く。
それでも、何も言わずにただ隣にいてくれる体温が本当に心地好くて、嬉しくて。
慰めなんて要らない。俺がもっと惨めになるだけだから。
それをわかってなお、こうしてただ隣にいてくれる人がいることの幸せさをひたすら、噛み締める。
「...裕一郎さん、」
「なに」
「なんできてくれたんですか」
「来て欲しくなかった?」
「...」
「これ、いる?」
手を退けて、ぎゅっと瞑っていた瞳をゆっくりと開ける。眩しい蛍光灯の強い光に目がチカチカして、何度か瞬きをする。
そのまま目線を隣に移せば、いつもの何考えてんだかよくわからない少し無愛想とも取れる綺麗な顔がこちらを見詰めていて。
嗚呼、こっちは、優しい光だ。
こちらに差し出されている手には、一粒のミルクチョコが乗せられていた。
クールな顔して手に持っているのは甘い甘いミルクチョコ、そんなアンバランス感に思わず頬が緩んでいくのがわかる。
「ちょこ」
「そう、チョコ。ケータリングんとこ置いてあった」
「...いります」
「ん。...これ終わったら飯行くか」
「めずらし、裕一郎さんが誘ってくれるの」
「お前がわかりやすくしょげてるから。美味いもん食ったらちょっとは元気出るだろ」
「ふふ、じゃあそれの為にがんばる」
「おー、好きなもん食わせてやるよ」
「かっこいいね」
「知ってる」
優しさの詰まった、一粒のミルクチョコ。そして仕事終わりの約束。
たったそれだけのことで、今日一日なにやってもうまくいかない苦しさから一気に解放されたような気がして、我ながら単純すぎるな、なんて笑ってしまうけど。
それでも、どんな時でも真っ直ぐ向き合ってくれる透き通った美しくて綺麗な瞳が。いつも俺に勉強を教えてくれる心地好い低音の声が。沢山の優しさと元気をくれたから。
「ああ、あと」
「なんですか?」
「あんま、自分のこと嫌いとか。そういうの思うなよ。Aのこと好きでいてくれる人達に失礼だろ」
「...たとえば、裕一郎さんとか?」
「まあ、...そういうことにしといてやる」
ぽん、と頭を撫でた後に、顔の輪郭に添って流れるように俺の瞼にそっと触れた手は、どうしようもなく暖かかった。
▽ なにやってもうまくいかない→←▽ まあ、そういうことにしといてやる
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ナシラ(プロフ) - もう更新されないんですか?めちゃめちゃ好きな作品なので更新してくれると嬉しいです! (9月30日 15時) (レス) id: 16950d514c (このIDを非表示/違反報告)
ナシラ(プロフ) - 更新楽しみに待ってます! (9月30日 15時) (レス) id: 16950d514c (このIDを非表示/違反報告)
みゆ(プロフ) - リクエスト難しかったのに書いてくれてありがとうございます!とっても良かったです!!さんたくゲストは気長に待ちますのでゆっくりで良いですよ! (2023年4月2日 1時) (レス) @page38 id: f4342f2c6a (このIDを非表示/違反報告)
穂香(プロフ) - リクエストお応えしていただきありがとうございます!!!最高でした!これからも楽しみにしていますね🙌🏻 (2023年4月1日 22時) (レス) @page41 id: 321f55f0ce (このIDを非表示/違反報告)
穂香(プロフ) - いつも楽しく拝見させていただいています!例にも書いてある、現場で学校の課題をする堀川くんの様子をツイートするやつ見てみたいです!ご自身のペースで全然大丈夫ですので、これからも頑張ってください!応援しています📣💜 (2023年3月19日 20時) (レス) @page37 id: 321f55f0ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほし | 作成日時:2023年2月22日 22時