紫の花に踊らされ【短編集】

4 ページ41

いまだにしゃがみこんだままのAは顔を向けることすらせず思ったことを口にした
意味がよく分からず、聞き返す

「ピッタリ？」
「うん」
「何が？どこが？」

何に対してピッタリなのか、そしてそれは何故なのか

「ピッタリはピッタリだよ。それだけ」

それ以上は伝える気はないらしく口を閉じる
はぐらされたとしか思えないが、Aはよくはぐらかすので慣れてしまった自分がいた

「まだ口に残ってる……」
「それがええやん」

ショートピースは一度吸ったらこれ以外ありえない、なんて中毒性をもつ人気なタバコの一つだ
その濃厚な味わいは長い間口に残り続け多大な満足感を得られる

だがAにとってはまだ難しい味わいらしく、さっさとなくなってくれ、というのが本音だった
ロングピースも慣れるのに時間がかかった、なんて言ったが本当はまだそこまで慣れていない
そもそもタバコ自体まだ好きと言えるわけでもないAは、人が長時間いなくても臭いが残り続ける喫煙所が好きになれなかった

「ふぅ…」

最後のひと呼吸を終えて火を消す
途中から話すことをやめたAは、足に顔を抑えて無言でショッピが吸い終わるのを待っていた

「ん……終わった？」
「終わった。てか、A眠いん？黙っとったけど」
「いや、そこまで」
「ふーん」

立ちあがったAは大きな伸びをし、気だるけな目をしながらショッピを見る

「ショッピは逆に寝られないの？」
「ご名答。寝られんくって暇やったからここに来た」

人と話せば少しは眠くなるかな、なんて気持ちもあったのだがAと話すことでそれはむしろ眠気をなくした

「へぇ、そうとう暇だったんだ」
「Aもどうせ暇やろ」
「暇だけど」
「やっぱ」

予想が当たったことが少し嬉しいのか、ショッピは少しだけ頬を緩ませる
彼の顔面偏差値なら、たったこれだけで女性を魅力させることができるだろう

「なら、俺の部屋で話さん？Aも明日非番やろ」

あくまで友人を誘うかのごとくAに提案する
まぁ友人なのだが

「いいの？」
「よくなかったら誘わんのだけど」
「それもそうだ」

そうと決まれば煙たい喫煙所からさっさと出て、二人でショッピの部屋へと向かう

「お邪魔しま〜す」

そう言いながら部屋に入れば、中は前に来たときと変わらない物の少なさだった

「殺風景」
「うるさいわ」

なんて他愛もない話をしながらダラダラと時間を過ごす

「ゲームやらん？」
「ボコボコにされるもん」

5→←3

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す