さよなら ページ14
見られた。バレた。どうしよう。
見開いた目に映るのは久しぶりにあった兄さんで。タバコの匂いを纏って優しい声で私の頭を撫でてくれたあの兄さん。
固まって動かなくなった私をひょいと抱き上げ窓枠から下ろす。なんて言われるのだろうか。裏切り者?それとも…?ゆっくり開かれた口に私は身を縮める。
「よう頑張ったな」
大きな暖かい手が私の頬を撫でる。予想とは真反対の言葉に私は息が詰まった。頑張った?私、無能なりにもなにかを頑張れた?
「Aは、1人でよう頑張った」
『…………ほんまぁ………………?』
私の頬に涙が伝う。その涙を優しくぬぐいとってくれる。私は子供みたいに泣きじゃくった。兄さんは何も言わず私を抱き寄せて服が濡れるのも気にせず胸を貸してくれた。
ズビズビと鼻をすする私。ただひたすら私を慰めてくれる兄さんに今だけ甘えさせてもらう。
「ここを出ていくんやろ」
『………うん』
『あのっ!』
「誰にも言わんよ」
なんで言わんの?驚いて顔を上げた私と微笑む兄さんとの視線が絡む。
「もう1人で頑張らんでええ」
「苦しいんやったらこんなとこ捨てて逃げたったてええんや。その権利がAにはあるんやから」
「やから俺は止めんよ」
ふんわりとタバコの匂いに包まれる。私を優しく抱きしめた兄さんを私も抱きしめ返す。
『……ありがと、兄さん………』
返事の代わりにさらに抱きしめられる。そして2人の体が離れ、兄さんは私の首に綺麗なネックレスをかける。
「お守りや」
「Aがどこでも幸せになれるように」
キラキラ光るネックレス、私はそっと握りしめる。
『ありがと』
私のお礼にひとつ頷くと兄さんは「はよ行き、誰かに見つかってしまう前にな」そう言って私の背をぽんっと押した。私はその勢いで前に進みまた窓枠に足をかけた。監視カメラの死角になる位置をもう一度頭の中に思い描いて今度こそ闇の中に身を投じた。
『…苦しいこともいっぱいあったけどな皆のそばにいられて幸せやったんよ』
『さよなら』
だけど皆の側じゃないと幸せなんて…。私はネックレスに触れただ1人闇の中をかけた。
──────
「渡してきた」
「…あぁ、助かったゾ。ありがとう、兄さん」
「…ほんまによかったんか」
「当たり前だろう、俺達は何がなんでもあいつを──」
真紅の瞳は覚悟を決めて空を見つめ、紫色の瞳は悲しげに歪められため息をつくのだった。
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もふもふ - 初コメします。今泣きながら読んでます。神作品を産んでくれてありがとうございます。 (2022年11月24日 18時) (レス) @page12 id: a41408c385 (このIDを非表示/違反報告)
うさ - 水月華さん» すみません。そうだったんですね…。勝手なことをしてすみません。ですが私の端末ではコメを消せないので作者様が消してもらえるといいです。 (2019年11月6日 22時) (レス) id: 95908891b8 (このIDを非表示/違反報告)
水月華(プロフ) - 当作品の中にパスワードについて記載しておりますのでそちらをご確認ください。申し訳ないのですが読みたいと思っている方だけに読んで頂きたいと思っておりますのでそうでない人の目にもとまりやすいコメント欄でパスワードを書くのはやめてください。 (2019年11月6日 8時) (レス) id: fac1d7eb45 (このIDを非表示/違反報告)
うさ - パスワードは1029です。本人様ではなくすみません。ストーリーの中で見つけられず、コメ欄に来た方々にこのコメを見ていただけるとありがたいです。 (2019年11月4日 15時) (レス) id: 95908891b8 (このIDを非表示/違反報告)
案山子 - 凄く面白い作品でした!是非続編が見たいので、パスワードを教えてもらってよろしいでしょうか? (2019年11月4日 1時) (レス) id: 51ee2da9ff (このIDを非表示/違反報告)
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