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でも、でもでもとやっぱり紅をもう一度塗った。
塗ったか塗ってないかわからないほど、薄く、薄ーく伸ばす。
「似合わなくてもいいわ、最後なんだから…」
鏡に映ったAの顔に、ほの暗い影が落ちる。
いけない、直ぐに暗くなってしまう。
「笑って、笑うの。暗い顔で最後を迎えるなんてそんなの貴方も嫌でしょ」
鏡の自分にそう言って、懸命に笑いかけた。
あれ、なんでだろう。
笑ってるはずなのに、私は口角を上げてるはずなのに。
なんでか鏡の私は泣きそうな顔でこちらを覗いていた。
───────
正午近く、Aは屋敷の縁側に腰掛けて空を眺めながら1人お茶を啜っていた。
先程、私が死んだあと、なるべく人様の手を煩わせないよう、最低限のもの以外は全て風呂敷に包んで納屋へとぶち込んだ。
屋敷はすっかりがらんどうになり、酷く殺風景で寒く感じる。
柱になったばかりの時の、屋敷を思い出した。
あの時から、この屋敷にはずっとお世話になっているのだ。
それから手早く掃除をして、現在に至る、といったところだろうか。
茶を啜りながら、Aは着物の下に隠れた忌々しい蕾をそっと撫でた。
明日の朝、この花は朝日とともに咲くのだから、今日の夜にここを出てあの花畑へ行こう。
…この綺麗な着物で行こうと思ってたけど、やっぱり私と言えば悲しいかな、隊服がしっくりくるのだから…夜に着替えて行こうかな。
この着物は禰豆子ちゃんにあげようか、竈門君は妹に綺麗な着物を着せてあげたいといつか言っていたし…
正直もう満足だった。
夢だった綺麗な着物に身を包んで、普通の人のように一日を過ごす。
皆の顔も見れたし、未練なんてもう、もう…
「ない、ハズなのになぁ…」
なんでかな、苦しくてたまらない。
皆と離れたくない、やっぱり死にたくない。
涙がこぼれ落ちそうになった、その時。
【ドンドンドン】
玄関の戸を乱暴に叩かれる音に、驚いて涙が引っ込んだ。
誰だろう、こんな時に尋ねてくるなんて。
引き継ぎはもう終わらせたし、自分には継子も親族もいないし…
悪いけど、今日は1人でいたい。
居留守を使わせてもらおう。
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なーな - 初見です! 完結お疲れ様でした!めちゃくちゃおもしろかったし感動で涙でしたっっっ!!! 素敵な小説をありがとうございました! (2021年11月30日 15時) (レス) @page45 id: 03957af64f (このIDを非表示/違反報告)
もちゃ - 泣いちゃったw (2021年1月25日 0時) (レス) id: b4bfec10e3 (このIDを非表示/違反報告)
うさぎもち - 号泣しすぎて...う"う"う" (2021年1月20日 22時) (レス) id: 676d0f88d2 (このIDを非表示/違反報告)
さけふろ - 感動です! (2021年1月11日 15時) (レス) id: c7bf1c88de (このIDを非表示/違反報告)
夢鸞 - 号泣です。素晴らしいお話、ありがとうございました。 (2020年11月29日 12時) (レス) id: 640116ca2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハナ | 作成日時:2019年9月30日 13時