4-9.ぶりっ子ちゃんの孤独 ページ10
昨日とは違う、昼の活気と明かりに満ちた一階の廊下。その奥に佇む化学講義室の前で、わたしは突っ立っていた。
往来する生徒がいながらも、背伸びをしてドアの窓から中を覗き見る真似をする。誰もいなかった。もりりん先輩も、泉先輩も、今日来るらしい先輩も。なのに電気がついている。おそるおそるドアに手をかけると、鍵も閉まっておらず、難なく開いた。
どの机にも誰かの荷物らしきものは置かれていない。正真正銘この部屋は、わたしひとりだ。……わたしひとり。
ひとり。
机は二十ほどしかなく、クラスの教室より狭い。でも、わたしには広過ぎる。
一番後ろを避けて、ひとつ前に座る。端っこの、廊下ではなく窓辺の手洗い場側だ。ここならさっきのわたしのように覗き見ない限り、前と後ろのドアの窓からは見えないだろう。
お弁当を取り出してから、隣の机に鞄を置く。蓋を開ける気にはなれなかった。さっきまでじわじわとせり上がっていた食欲が、何かにぶつかって留まった。見覚えがある。もう見ることはないと思っていたのに。
乗り越えたはずの「それ」が、再度わたしの影から顔を出した。蘭ちゃんたちは後から来る。だから昔とは違う。そう言い聞かせても、消えるどころかわたしの背後に覆い被さって、記憶に触れた。
誰もいないトイレの個室で、うつむいて黙々とお弁当を食べるツインテールの女子。わたしだ。今のわたしと、同じだと言いたいのか。がたんと物音らしきものが鳴ると、「わたし」はさっとお弁当を隠す。あの時はちょっとした音にも怯えたものだ。
――ガタンッ。さっきよりも大きな音が耳元で炸裂し、わたしは我に返った。後ろを振り返ったが、掃除用具入れがあるだけだ。気のせいだと一笑しても、鼓膜に響くその余韻が、夢のようで夢じゃないと曖昧に歌っている。
誰のそばにも、孤独はいる。そこに誰かを置いてひた隠しにするか、頼るものもなく見てしまうかの違いだと思う。
二段弁当の蓋を開ける。お箸を取り出す。その時、廊下から忙しない足音が近づいてきた。手を止め、思わず天井を見た。いや、違う。確かにいつもは上から降ってくるものだけど。今日は一味違う。
入り口を見て視線の待ち伏せをするより早く、そのドアは騒がしく開け放たれた。
「いっちばん乗りーっ!」
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やま(プロフ) - 更新待ってます!! (2021年9月19日 18時) (レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
柚子 - もえたん可愛いですね!私自身、ぶりっ子の事が嫌いまでとはいかないけど少し苦手意識があったんですが、この作品を読んでぶりっ子への意識が変わりました!ありがとうございます!これからも更新頑張って下さい!! (2021年8月24日 1時) (レス) id: 12dcb448c9 (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 面白くて、『一周回ってぶりっ子を許せる小説』から一気見しちゃいました!!皆大好きです!!次の更新楽しみにしてます!! (2021年7月19日 19時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - こんな一生懸命で可愛いぶりっ子なんて許す以外に方法あります…?! (2021年7月17日 15時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - リカさんさん» ありがとうございます!!お楽しみいただけてとっても嬉しいです!これからもぶりっ子の可能性を発掘していきます!偏見や先入観だけで片付けるには、あまりにももったいない逸材なので……! (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆の字 | 作成日時:2020年3月30日 18時