4-31.ぶりっ子ちゃんの杞憂 ページ32
わたしはジェンガに問いかけた。なぜ意地悪なお題ばかりなのかと。
もりりん先輩から食を奪い、夏目先輩から尊厳を奪っておきながらもなお机の上にそびえ立つ赤青緑の理不尽を、だんだん許せなくなった。自己嫌悪を除けばわたしは怒りを覚えることが少ない質だと思っているが、これから蘭ちゃん達にも二人のような災難が降りかかるのだと思うと眉をひそめずにはいられなかった。大きな衝撃や感動にぶつかることのない砂を噛むような人生を送ってきた分、こうしてみんなでわいわいするのは無論つまらないはずがなく、楽しさが高じてつい妙な万能感に酔ってしまう。でも、この楽しさは、誰かの犠牲の上で成り立っているような気がして……。
不意に、視界の横から枝が伸びてきた。夢野先輩の儚すぎる腕だった。頼りなさげな指先で青色のブロックを捕まえ、
「いつもの笑顔はどこいったの」
とテレパシーのようにわたしの脳内に響かせた。咄嗟に目を合わせたが、人の世でない異世界を眺めているようなその曖昧な両目とちゃんと合っているのか相変わらず自信が持てない。
「洋先輩いつの間に!? 数秒前までカーテンにくるまってたのに……」
「んーと、『みんなに胴上げしてもらう』だってさ」
「胴上げ!? 神に愛されすぎだろ! いーなーいーなー!」
「机、退けましょうか、危なそうなので……」
てきぱき机を移動させる蘭ちゃんとそれを手伝う泉先輩。できた広いスペースで夢野先輩をおんぶしてはしゃぎ回る夏目先輩。夢野先輩の無軌道さに首を傾げていたもりりん先輩も「まーいっか」と切り替えて胴上げの役割分担を仕切っている。
なんだか、みんな楽しそうだ……。
人を貶めることを娯楽としていたジェンガがようやく愉快なお題をよこしてくれたからもあるだろう。でも仮にまた理不尽な内容だったとしても、それなりに受け入れ実行する覚悟と、そんな状況さえも楽しむ気持ちを持ち合わせて臨んでいたのだろう。
だからわたしも、難しい顔をやめて目の前の「楽しい」に飛び込んだ。
お題の主役を取り囲み、夏目先輩は頭、わたしともりりん先輩は胴体、蘭ちゃんと泉先輩は足を支える構えを取る。
「よっしゃーいくぞーーお! せーのっ」
わーっしょい、とめでたく一回。
「「「「軽っ!」」」」
まさか、わたしたち女子の声がこんなにもぴったり重なるとは思わなかった。
4-32.ぶりっ子ちゃんの失跡→←4-30.ぶりっ子ちゃんの感銘
423人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やま(プロフ) - 更新待ってます!! (2021年9月19日 18時) (レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
柚子 - もえたん可愛いですね!私自身、ぶりっ子の事が嫌いまでとはいかないけど少し苦手意識があったんですが、この作品を読んでぶりっ子への意識が変わりました!ありがとうございます!これからも更新頑張って下さい!! (2021年8月24日 1時) (レス) id: 12dcb448c9 (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 面白くて、『一周回ってぶりっ子を許せる小説』から一気見しちゃいました!!皆大好きです!!次の更新楽しみにしてます!! (2021年7月19日 19時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - こんな一生懸命で可愛いぶりっ子なんて許す以外に方法あります…?! (2021年7月17日 15時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - リカさんさん» ありがとうございます!!お楽しみいただけてとっても嬉しいです!これからもぶりっ子の可能性を発掘していきます!偏見や先入観だけで片付けるには、あまりにももったいない逸材なので……! (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:豆の字 | 作成日時:2020年3月30日 18時