4-11.ぶりっ子ちゃんの硬直 ページ12
「あともうひとりいらっしゃるって聞いたけど……。塒蘭ちゃん、だよね？ その子は来てないの？」
「あ、えっと……日直の仕事があるので、後から来るみたい、です……」
さっきからぶりっ子の欠片もない人見知り丸出しの受け答えばかりしてしまう。小心者ゆえにその苛立ちをバネに出来る度胸もなく、心の「もえたん」が萎縮していく。
「そっかぁ」と夏目先輩は言うと、わたしのお弁当に目を落とした。開けっ放しで、まだ一口も食べていない。
「じゃあ、先に一緒にお昼食べよっか！」
わたしは石化した。動揺も困惑もままならず、型落ちAIみたいな声で「ハイ」と返事した。
縮こまるわたしをよそに、夏目先輩は前の席をわたしの机とくっつけ、鞄からお弁当を出した。その拍子にプリントも一緒に飛び出た。すると夏目先輩はサッと青ざめ、「提出期限、昨日だ……」と遠い目で呟いた。夏目先輩の平常点が心配だ。
一緒に食べる相手ができた。もうさっきみたいに寂しくないはずだが、食欲は戻らなかった。今度は別の問題ができた。
生来内気なわたしは、異性とは事務的な用事以外でろくに関わった経験がない。ましてや昼食を共にしたことなど皆無だ。だからそういった積み重ねがない分、夏目先輩の前でどんな顔をして、どんな話をして、どんな食べ方をすればいいのか分からない。いつものように放送を聞きながら食べるのとはわけが違う。ここに、目の前に、いるのだ。
下手なことをすれば初対面の田山君の時と同じ運命を辿ってしまう。夏目先輩の乾いた笑いなんて見たくない。そう考えれば考えるほど、心の「もえたん」の自粛モードに拍車がかかる。
「いや〜めっちゃお腹空いたな〜朝ご飯抜いて来たからかなあ〜。いつものことだけど！」
余計な葛藤にがんじがらめになるわたしをよそに、夏目先輩はうきうきで二段弁当を開けた。
その瞬間、夏目先輩は一時停止した。「え……」と聞いたこともないような声を出すのでお弁当を覗いてみると、わたしも同じ声を上げた。
何も入っていなかった――！
嫌な予感をまとった手でもう一段も開ける夏目先輩だが、残酷にもその予感は的中していた。白米とおかずの代わりに純然たる虚無が詰まった二段弁当を前に、わたしと夏目先輩は呆然とする他なかった。
嘆き動揺するところだったわたしを片手で制した。何故か余裕っぽい笑みを浮かべている。
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やま(プロフ) - 更新待ってます!! (2021年9月19日 18時) (
レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
柚子 - もえたん可愛いですね！私自身、ぶりっ子の事が嫌いまでとはいかないけど少し苦手意識があったんですが、この作品を読んでぶりっ子への意識が変わりました！ありがとうございます！これからも更新頑張って下さい！！ (2021年8月24日 1時) (レス) id: 12dcb448c9 (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 面白くて、『一周回ってぶりっ子を許せる小説』から一気見しちゃいました！！皆大好きです！！次の更新楽しみにしてます！！ (2021年7月19日 19時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - こんな一生懸命で可愛いぶりっ子なんて許す以外に方法あります…?! (2021年7月17日 15時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - リカさんさん» ありがとうございます！！お楽しみいただけてとっても嬉しいです！これからもぶりっ子の可能性を発掘していきます！偏見や先入観だけで片付けるには、あまりにももったいない逸材なので……！ (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：豆の字 | 作成日時：2020年3月30日 18時
