4-10.ぶりっ子ちゃんの対面 ページ11
勢いよく飛び込んできた男子。あ、と声が出そうになった。わたしの列まで歩いたところで初めて目が合った瞬間、本当に出た。
いつも放送で聞くその声。二学期の始業式で見たその姿。
そのふたつが、今一致した。
この男子は、水泳部の表彰で、一位の男子に嫉妬の眼差しを送っていた――
「……あ! これは失礼、二番乗りでした〜☆」
でへへと照れ笑いする男子に向かって、思いっきり叫んだ。
「二位の人だ!」
途端、男子は凍りついた。笑顔のまま全身が小刻みに震え出し、血を一気に抜かれたように顔面蒼白になってしまった。
すぐさま席を立って謝罪した。
「すみません! わたし、失礼なことを……!」
「い、いや、平気だよ。事実だから、何も謝らなくていいよ……」
震えも顔色もすぐに直ったが、罪悪感が残った。次なるお詫びの言葉を組み立てていると、見つめられていることに気づいた。すたすたと歩き、まごつくわたしの前に立つと。
「見たことある!」
「えっ?」
「五月の体育祭でさ。生徒会長の挨拶をしてる時に最前列で立ってるとこ見たよ! なんか極刑待ちみたいなオーラ放ちながらうつむいてたから心配だったけど……」
今度はわたしが凍りついた。
そうだ。今の今まで忘れていた。ぶりっ子人生最大の地獄を。夏休み最終日に思い出した黒歴史の数々を凌駕するやらかしを。癒えずにあの日のまま残った傷跡が悲鳴を上げるようにうずく。
「あ、あれっ? どうしたの大丈夫!?」
「い、いえ、何も……」
表情を繕うものの、とてもお見せ出来る顔じゃないので下を向いた。そしてしばしの沈黙。気まずい空気が肌にしみる。
悪意はないとはいえ、わたしが地雷を踏み抜いてしまったばかりに。それなら泉先輩がああだった理由も、わたしのこの無神経さにあったのかもしれない。
「朝戸衣百恵ちゃん」
急に呼ばれ遠慮がちに頭を上げると、「……だよね?」と前屈みになって目の高さを合わせてくれた。視線を交わすことで、不本意に晒されたお互いの古傷を塞ぎ合う。やがて、彼は笑った。
後ろ向きな考えは、これでおしまいだ。
「初めまして、
夏目先輩の真夏の日差しのような笑顔は、放送で思い描いていたものよりも眩しく、それでいて優しかった。
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やま(プロフ) - 更新待ってます!! (2021年9月19日 18時) (レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
柚子 - もえたん可愛いですね!私自身、ぶりっ子の事が嫌いまでとはいかないけど少し苦手意識があったんですが、この作品を読んでぶりっ子への意識が変わりました!ありがとうございます!これからも更新頑張って下さい!! (2021年8月24日 1時) (レス) id: 12dcb448c9 (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 面白くて、『一周回ってぶりっ子を許せる小説』から一気見しちゃいました!!皆大好きです!!次の更新楽しみにしてます!! (2021年7月19日 19時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - こんな一生懸命で可愛いぶりっ子なんて許す以外に方法あります…?! (2021年7月17日 15時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - リカさんさん» ありがとうございます!!お楽しみいただけてとっても嬉しいです!これからもぶりっ子の可能性を発掘していきます!偏見や先入観だけで片付けるには、あまりにももったいない逸材なので……! (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆の字 | 作成日時:2020年3月30日 18時