4-1.ぶりっ子ちゃんの誘拐 ページ2
活動の明かりが消えた渡り廊下。後ろを振り返っても、白い壁の濃い陰影に行き止まりであることを諭されるだけだった。
「安心して! 私たち、全然怪しくないから!」
と、わたしと蘭ちゃんをずっと尾行していた怪しい女子が言う。背中に夕焼け色の逆光を浴び、頭頂部に生えた双葉のシルエットがくっきりと作り出されている。その手がかりだけで、後ろに立っているもうひとりの女子に至っては一切の情報を拾わずとも全貌を思い描ける。
この二人は、わたしが繰り出した「ももえーる」を穴が開くほど見つめていた二年生の女子だ。
「な、何か……ご用でしょうか……?」
蘭ちゃんが弱々しく用件を伺う。わたしを庇うように前に出ていたが、音もなく後ずさり始める。けれど、わたしより一歩前で踏み留まった。踏ん張っている、といった方が正しいか。
そんな彼女の健気な結界はあっさり破られ、わたしたちは二人に腕をホールドされた。
「ちょっとだけ、お時間いいかな?」
双葉の女子は、前方右手の化学講義室を指差した。
目立った抵抗をする勇気もなく、無人の講義室に入る。化学は二年生から習う教科な上に、講義室自体利用したことがなかった。窓辺に並ぶ手洗い場、上下スライド式の黒板、流し台付きの先生用の実験台。そこを流れる吸ったことのない空気も相まって、大げさなくらい新鮮に映った。
二年生の二人は、中央の四つの席をせっせと向かい合わせる。蘭ちゃんと入り口で棒立ちしながらそれを眺めていると、「ささ、座って座って!」と双葉の女子に手招きされた。
今なら背中を向けて脱走することも不可能ではなさそうだが、尾行の理由が聞けるなら従う他ない。
「お言葉に甘えて〜……」
素なのかぶりっ子なのか四捨五入し辛い声をおずおずと上げつつ、不信感むき出しの蘭ちゃんの袖を引いて席についた。
「ストーカーみたいなことしてごめんね。そうだ、お詫びにチョコでも……あれ?」
双葉の女子がスカートのポケットに手を突っ込むが、出てくるものは空の包み紙ばかり。しまいには机の上に山が出来た。
「チョコならさっき後をつけながら貪ってたじゃない」
「……しまったぁあ! 全部自分で……ごめんねーっ!」
机に手をつきこうべを垂れる双葉の女子に、「食いしん坊なんだから」とクールそうな女子が呆れる。いえいえお構いなく、とわたしたちはぎこちなく笑った。
怪しいけれど、悪い人じゃなさそうだ。
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やま(プロフ) - 更新待ってます!! (2021年9月19日 18時) (レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
柚子 - もえたん可愛いですね!私自身、ぶりっ子の事が嫌いまでとはいかないけど少し苦手意識があったんですが、この作品を読んでぶりっ子への意識が変わりました!ありがとうございます!これからも更新頑張って下さい!! (2021年8月24日 1時) (レス) id: 12dcb448c9 (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 面白くて、『一周回ってぶりっ子を許せる小説』から一気見しちゃいました!!皆大好きです!!次の更新楽しみにしてます!! (2021年7月19日 19時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - こんな一生懸命で可愛いぶりっ子なんて許す以外に方法あります…?! (2021年7月17日 15時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - リカさんさん» ありがとうございます!!お楽しみいただけてとっても嬉しいです!これからもぶりっ子の可能性を発掘していきます!偏見や先入観だけで片付けるには、あまりにももったいない逸材なので……! (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆の字 | 作成日時:2020年3月30日 18時