3-8.ぶりっ子ちゃんの眼鏡 ページ9
「お待たせっ♡ 決着、つけよっか♡」
気をしっかりして、田山君へと向き直る。媚びるような語尾は忘れないが、この心は闘志で燃え上がっている。それを察してか、田山君も静かに眼鏡の位置を調整し、表情を引き締めた。
「さーいしょーはグー♡」
わたしは次にグーを出す。田山君はきっとチョキを出す！
そう信じて。
「「じゃーんけーんぽんっ！！」」
田山君の出した手を目にした瞬間、視界が揺らめいた。信じたくないと二度見、三度見、もう何度も見直し、やっと自分の敗北を理解出来たとき、黒い絶望の塊がわたしを殴り倒した。
勝ち抜けた田山君が前のホワイトボードに向かう。
とても、蘭ちゃんに顔向け出来なかった。萎れた花のように首を垂れ、今にも崩れそうなほど震える両膝を見つめることしか出来なかった。
――ごめんね、蘭ちゃん。
グーのままの拳を強く握りしめた、その時。
「どうぞ」
田山君の穏やかな声とともに、視界にマーカーが伸びてきた。失意の涙を堪え、ゆっくり顔を上げてホワイトボードを見ると。
「え……」
思わず目を疑った。
――空いている番号が、わたしが書かざるを得ない番号が、一番じゃなく、二番だったのだ。
「た、田山君……？ 名前書くとこ、間違ってるよ……？」
「間違ってないですよ。僕が一番で、朝戸衣さんが二番です」
「そ、そんな……っ！ せっかく田山君が勝ったんだから、気を遣わなくても――」
考え直してもらおうと説得しようとしたわたしを宥めるように「朝戸衣さん」と言うと、マーカーをわたしに握らせて、軟らかくこう継いだ。
「プレゼン、お互い頑張りましょうね」
席に戻っていく田山君の背中を、呆然と見送った。
なぜ田山君が二番を譲ってくれたのか分からなかった。ただ、今分かることは。
またもや彼に、借りが出来たということ。
そして、彼のためにも、必ずやプレゼンを成功させなければならないということ。このふたつだ。
感謝の気持ちを込めたマーカーで二番に名前を書きながら、ふと思った。
もしや、朝に見たラッキーアイテムの眼鏡って――。
3-9.ぶりっ子ちゃんの好事→←3-7.ぶりっ子ちゃんの古傷
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 333人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やま(プロフ) - 面白いです、笑っちゃいました。 (2021年9月19日 13時) (
レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
無気力に自信が有る人 - あ、真白と同一人物です！ (2021年7月25日 17時) (レス) id: 19b8beddf0 (このIDを非表示/違反報告)
無気力に自信が有る人 - 思わず笑っちゃいました！しかも、なんか余計にクラスの人に�猜僂陛朖瓩辰道廚錣譴修Δ覆海箸鬚錣兇錣供帖帖帖帖�この小説凄く面白いです！ (2021年7月25日 17時) (レス) id: 19b8beddf0 (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - 真白さん» ぶりっ子についてプレゼンする人なんてそうそういないですよね（苦笑） (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - Rukia (ゆっくりゆる)さん» ありがとうございます！！一人一人の登場人物をこんなに丁寧に見てくださって本当に嬉しいです！（いつか名前も覚えていただければ大変恐縮です！）りうむちゃんのことも好きになってもらえて嬉しいです、ぜひ推してあげてください！ (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：豆の字 | 作成日時：2019年12月7日 15時
