3-29.ぶりっ子ちゃんの後援 ページ30
わたしは音もなく蘭ちゃんから一歩下がり、足を肩幅にまで開き、丹田に力を込めた。外部からの情報を完全に遮断し、奥底に眠る力を覚醒させることだけに集中する。
冴え冴えとしていく思考に、伝えたい想いが流れ出す。漠然としたそれを掴み取り、言葉に起こし、紡ぎ合わせれば――「ももえーる」の完成。
意を決して、わたしは手拍子をしながらぴょんぴょん跳ねた。
「ふれっふれっ蘭ちゃん！ ふれっふれっ蘭ちゃん！ ひとりじゃ♪ ないよ♪ わたしが♪ ついてる♪ ふぁいと♪ ふぁいと♪ 健闘♪ 祈るよ♪ 勇気が♪ みなぎる♪ ももえーるっ♪ キラッ☆」
決めポーズのまま、わたしは全身凍結した。ああ、この感覚。前にもあった。音の失った世界。凍り付いた空気。言葉を忘れる周りの人たち。あの自己紹介と同じだ。今度は恥ずかしさを凌駕した一種のおぞましさが、わたしの体をじわじわ解凍した。顔面に熱が帯びる。背中に嫌な汗が滲み出る。みんなが見てる。わたしは見られている。色んな眼差しがわたしひとりに集中的に突き刺さる。それが好意的なものなのかそうじゃないのか、暴くのが怖かった。
恐る恐る、決めポーズを引っ込める。その瞬間、蘭ちゃんは下ろしたわたしの手を両手で包み込んでくれた。
「ありがとう、百恵ちゃん……！ 頑張ってくるねっ！」
その穏やかな微笑みのおかげで、わたしは気づけた。
何十秒も、何分にも思えたさっきの感覚は、実はたったの一瞬だったことに。
行ってきます、と告げてから蘭ちゃんは近くの教室に入っていった。何事もなかったように喧騒を取り戻す廊下に安堵しながら、わたしはそばにあった掃除用具入れの影に身を潜め、中を窺った。
勇んで入ってみたはいいものの、誰に声をかけるべきか迷い、彷徨している様子。その心細そうな後ろ姿を見るだけで辛くなった。今すぐ飛び出したくなったが、ぐっと堪えた。今はわたしの出る幕ではない。
そこに、女子二人が教室に入った。蘭ちゃんにさり気なく近付き、さり気なく話しかけられたそうにアピールしている。そこまでされると流石に蘭ちゃんは気づき、二人にアンケートをとり始めた。二人ともそれに妙に乗り気なように見受けられる。
この二人は、さっきのももえーるの目撃者。誰よりも長く、食い入るようにわたしを見ていた。ひとりは頭に双葉のようなものを生やした快活そうな女子。そしてもうひとりは対照的に冷静沈着な雰囲気を放つ女子だった。
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やま(プロフ) - 面白いです、笑っちゃいました。 (2021年9月19日 13時) (
レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
無気力に自信が有る人 - あ、真白と同一人物です！ (2021年7月25日 17時) (レス) id: 19b8beddf0 (このIDを非表示/違反報告)
無気力に自信が有る人 - 思わず笑っちゃいました！しかも、なんか余計にクラスの人に�猜僂陛朖瓩辰道廚錣譴修Δ覆海箸鬚錣兇錣供帖帖帖帖�この小説凄く面白いです！ (2021年7月25日 17時) (レス) id: 19b8beddf0 (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - 真白さん» ぶりっ子についてプレゼンする人なんてそうそういないですよね（苦笑） (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - Rukia (ゆっくりゆる)さん» ありがとうございます！！一人一人の登場人物をこんなに丁寧に見てくださって本当に嬉しいです！（いつか名前も覚えていただければ大変恐縮です！）りうむちゃんのことも好きになってもらえて嬉しいです、ぜひ推してあげてください！ (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：豆の字 | 作成日時：2019年12月7日 15時
