2-3.ぶりっ子ちゃんの分身 ページ21
わたしの頭蓋骨に雷が落ちた。
重苦しさが窺える少しボサボサの長い黒髪。眼鏡。そして慢性的な自信のなさに八文字化した眉。
さながら、ぶりっ子になる前のわたしではないか。
わたしの前世の分身が一歩、また一歩と教卓に向かう。こわごわと。音を立てたら殺すぞと脅されているのかと思うほどだ。
「まず黒板に名前を」
教卓にたどり着いてそのまま硬直している分身に、大谷先生がいつもより少し穏やかな調子で促した。分身はびくっと肩を跳ねさせ、慌ててチョークを持って黒板に向かった。
その持ったチョークというのが小さすぎる。他にもっとマシな長さがたくさんあるというのに、よりによって二センチも満たないのを選んだ。書きづらいのか、緊張しているのか、小刻みに腕が震えている。出来上がった土へんはとてつもなく弱々しくて小さかった。こんなにまで存在感のない土へんは見たことがない。軽く息を吹いただけで簡単に飛んでいきそうだった。
「あっ」
「日」が書き終わりそうなところでチョークを落としてしまった。もともと小さいチョークが砕けてさらに小さくなった。これでは書けそうにない。砕けたそれを分身は絶望に染まった目で見つめた。貧血で今にも倒れそうなほど顔面蒼白で、手先がわなわな震えている。見てるだけのわたしまで心が抉られるようだった。まるで、自分を見ているようで。
「慌てなくていい」
大谷先生は黒板消しを分身の近くに寄せ、新しいチョークを渡してあげた。分身は「すみません」と泣きそうな声でお礼を言って恭しく受け取った。やがて無事に書けたらしく、チョークを静かに置いた。出来上がった漢字二文字はやはり自信を喪失した筆圧だった。
分身は向き直り、わたしたちを見渡した。すると今度は、画用紙のように真っ白だった顔色がみるみる赤くなっていった。固唾を呑んで見守っているであろうみんなの両目から逃げるように、忙しなく目を泳がせ始めた。
「あの」「えっと」「その」ばかりで、その先がつっかえて出てこない。泳いだ視線はどんどん下を行く。耳まで真っ赤になっていく。依然としてみんなは辛抱強く見守っているのが背中でわかるが、それがかえってプレッシャーとなっているかもしれない。
彼女を助けたい。彼女はわたしの分身だ。彼女を救えば、前世のわたしも救われるような気がする。
――ここは朝戸衣百恵が、いや――もえたんが、彼女の緊張を解さねば！
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酔風 - 面白かったです…夏目先輩かっけぇ！萌ちゃん許せるどころかファンになりそう…。続編読んできます(｀･ω･´)ゞ (2021年7月25日 10時) (
レス) id: d8696aafac (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 夏目せんぱぁああい！！いつか、いつか言紡高校に入学してもいいですかっ！？！？ (2021年7月19日 17時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
彩華 - 初めまして！こんな小説を求めていました！この小説を読んだ方が、ぶりっ子＝悪女とかでは無くて、ぶりっ子は一つの個性なんだなって思ってもらえると良いですね！ももたんめっちゃ好きです！頑張ってください〜！ (2021年7月17日 15時) (レス) id: da4daeacca (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - 「ふんぬぁぁああ゛ぁあ゛ァあッ！゛！」 握力計ったときのこれ好きですwwwwwww (2021年7月17日 14時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - 真白さん» ありがとうございます！！確かにぶりっ子の言動を見ていると、自分にも思い当たる節があったり……なんてことが自分にもあったりしました（笑）「ぶりっ子のふり見て我が振り直せ」ですね（汗）夏目先輩を好きになってもらえてすごく嬉しいです！ (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：豆の字 | 作成日時：2019年9月9日 17時
