1-17.ぶりっ子ちゃんの一夏 ページ18
そして、今。
夏休み最終日の夜に至る。
今までの人生の中で、こんな激動の一学期を送ったことなんてない。脇目も振らず転がるように駆け抜けた。こうしてセーブポイントまでたどり着き、ほっと息をつくと、双肩にのしかかって来たのはどうしようもない後悔だった。
あの時は一時の勢い任せで決意を固めたり覚悟を決めたりしたのだが、冷静になってみると、その影にはいつもうっすらと後悔が尾を引いていた。捨てきれない未練がそこに燻っていた。
わたしの夏休みは、傷心に浸りながらひたすら宿題と復習に追われるだけで終わった。ときどき不意にぶりっ子をかまして失敗した恥ずかしい記憶を思い出しては胸をじくじく痛ませた。さっき思い出した記憶以外にも、やらかしエピソードは数知れずあったような気がしたが、もう精神的ショックが大きいせいであまり覚えていない。心の余裕ができたらまた急に思い出すだろう。思い出したくないが。
ぶりっ子……。
明日になれば茶髪のツインテールにリボンを結び、カチューシャを付け、公衆の面前で可愛こぶりっ子する日々がまたやって来るのだ。いっそ悪魔に魂を売り渡しても構わない。時を止めてほしい。いや、戻してほしい。ぶりっ子を研究したせいで、すっかり癖がついてしまって、家ではぶりっ子が出ないように我慢するので必死だった。一度だけ、出てしまったが。
夏休み中、家族で水族館に行ったとき、アザラシを目にした途端「きゃぁ〜かわゆい〜っ♡」とあの声を出してしまった。両親が同時に振り返って「どうした！？」とでも言うような顔をした。わたしは乾いた笑いでごまかしながら、自分のことを空恐ろしく思った。ぶりっ子の仮面を被らなくても、「芯」がぶりっ子に染まり始めているのだ。
もう、断ち切れない。もう、わたしからぶりっ子を引き剥がすことは叶わない。
すでに日付が変わっていた。それだけで泣き出しそうになった。赤ペンで真っ赤の数学ノートを閉じ、明かりを消し、名残惜しむようにのろのろとベッドに入った。
布団を握りしめ、じっと目を閉じる。そして思考が休息に入る寸前、その真っ暗な思考に白い流れ星のようなものが横切った。
そういえば、大谷先生が終業式のホームルームに、こんなことを言っていたような。いや、確かに言った。
「夏休み明けにうちのクラスに転校生が来る」と。
【第一章 もえたん爆誕編 完】
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酔風 - 面白かったです…夏目先輩かっけぇ！萌ちゃん許せるどころかファンになりそう…。続編読んできます(｀･ω･´)ゞ (2021年7月25日 10時) (
レス) id: d8696aafac (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 夏目せんぱぁああい！！いつか、いつか言紡高校に入学してもいいですかっ！？！？ (2021年7月19日 17時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
彩華 - 初めまして！こんな小説を求めていました！この小説を読んだ方が、ぶりっ子＝悪女とかでは無くて、ぶりっ子は一つの個性なんだなって思ってもらえると良いですね！ももたんめっちゃ好きです！頑張ってください〜！ (2021年7月17日 15時) (レス) id: da4daeacca (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - 「ふんぬぁぁああ゛ぁあ゛ァあッ！゛！」 握力計ったときのこれ好きですwwwwwww (2021年7月17日 14時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - 真白さん» ありがとうございます！！確かにぶりっ子の言動を見ていると、自分にも思い当たる節があったり……なんてことが自分にもあったりしました（笑）「ぶりっ子のふり見て我が振り直せ」ですね（汗）夏目先輩を好きになってもらえてすごく嬉しいです！ (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：豆の字 | 作成日時：2019年9月9日 17時
