嘘吐き ページ6
「おーし、今日はこれで終わりだ。週末だからってはしゃぎ過ぎて怪我すんじゃねぇぞー」
その声を合図にカチッと時計の短針と長針が重なり、授業終了の鐘が鳴り響く。すると数秒前まで教師である相楽の声しか聞こえなかった教室内が一気に騒がしくなった。金曜日の最後の授業を終えた現在、これから二日続く休日に気分が高まるのは当然なのだろう。「明日中央広場集合ねー」などと早速約束を組む声も聞こえる。
「おーおー元気だなぁ。けどオジサンだって負けてねぇぞ。待ちに待った花金だ、たまには深酒でもして＿＿」
ぷつんと不自然に言葉が切れる。授業の道具をしまいながら独り言を零していた相楽の目に映り込んだのは、誰よりも早く教室を駆け出していった女子生徒の姿。普段なら「若ぇなぁ」で済ます相楽だったが、今回はそれが出来なかった。
何故ならその女子生徒の瞳に、きらりと光るものが見えたからだ。
「……」
相楽の視線が僅かに真剣味を増す。そういえばあの女子生徒は最近元気が無かった。元々元気な性格というわけではなかったはずだが、授業は真面目に受けていたし、何よりくだらない自分の無駄話にも相槌を打ちながら聞いてくれていた。つまらない冗談にもくすくすと笑ってくれていた。
しかしここ数日は意識が何処かへ向いてしまっているようで、窓の外をぼーっと眺めることが多かった。考え込むように目を伏せることも。
何か良くないことが彼女に起こっているのだろう。
だかそれをわかったところで自分が出来ることは何もない。担任でもないし、彼女の人柄を完全に理解しているわけでもない。力になれはしないのだ。それにさっき目にした涙も見間違いかもしれない。本当だったとしても、慰めるのは自分ではなく友人などの親しい人間の役目だろう。
「菜緒ちゃん……」
ほら、明らかに何かを知っていそうな女子生徒が心配そうに教室の出入り口に視線を送る。そばに行かないのは理由があるのだろうか。
これは相楽の癖のようなもので、つい周りの出来事に目が行き考察をしてしまう。悪い癖だと自分でもわかってはいるが、中々治らない。周囲をよく見れると言えば長所に聞こえるが、知る必要のないことまで知ってしまうのは良い事ではない。寧ろ短所だ。
「……ま、なるようになるだろ」
そう呟き、相楽は駆け出した生徒の友人らしき人間に声をかけた。
「おいおい、んな暗い顔してどうしたよ。何か心配事でもあんのか？」
話しやすいよう気軽さを纏いながら。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
●龍●(プロフ) - そのためならいくら責め立てられようと構わない。そういう考えなのです…。文字制限で削ってしまった部分でもあったので、怜皇様が察してくださってとても嬉しいです…！！ (2018年8月14日 11時) (
レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» わーまたまたコメントありがとうございます！！ そうなんです、相楽の嘘は将来気づかれ責められたり憎まれてりしてしまうもので、けれどそれを覚悟の上で嘘を吐いたのです。今女子生徒が絶望に落ちるよりも、笑顔でいる方がいい。 (2018年8月14日 11時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
怜皇(プロフ) - わっわっそんな相楽さん(´；ω；`)相楽さんが女子生徒の笑顔を守るために嘘をつくところ、すごく心痛みました…卒業して外に出るようになった生徒に攻められ恨まれる可能性だってあるのに…相楽さん(´；ω；`) (2018年8月13日 21時) (レス) id: 0ed6205140 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» 怜皇様はどう思われるだろうか…と不安でした。なのでこうしてわざわざ来てくださり感想を伝えてくださった怜皇様の心遣いがとても嬉しいです！！リズィーさんと相楽と、そして怜皇様と作り上げた素敵な関係が表現できていたなら良かったです…！ (2018年8月11日 22時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» わわわ怜皇様じゃないですか…！！こんばんは、早速見てくださりありがとうございます…！！こんなにもたくさんお褒めいただき、光栄であると共に本当に心から嬉しいです！今回は前話より更にリズィーさんを大胆に動かしてしまったような気がしたので、 (2018年8月11日 22時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
