臆病者 ページ2
「今回はしょうがなかったんだよ。ほら、今までは一度も無かっただろ? お前を拒否したことなんて」
「だからです。……何をしていたか、教えてくださりますか?」
じっと目を見つめられる。相楽はリズィーのその仕草に弱かった。紫がかった黒の綺麗な瞳で見つめられると何でも望みを叶えてあげてしまいたくなる。だからと言って甘やかすわけでも、リズィーが素直に甘やかされるわけでもないのだが。
相楽は煙草を吸いながらぽつりぽつりと零し始めた。
「呼ばれたんだよ、ある人から。お前も知ってる筈だ」
「私も知っている人……? 学園関係者ですか?」
「そ。オジサンが学生のときの理科の先生。覚えてるか?」
「……はい」
懐かしむように話す相楽は、学生時代のことを思い出しているようで。リズィーも数十年前、相楽と出会ったあの日のことを思い出した。
「その人から急に呼び出しがかかったと思ったらよ、こう言われたんだ。『俺はもうすぐ寿命が来る。けどウェポンをソウルにすることはしたくない。だからウェポンを先に殺し、共に一生を終えることにした』ってな」
「!……それは」
「俺に自分たちが死んだ後の後処理をしてくれってこった」
自分のウェポンをソウルにするのを防ぐため、共に死ぬ選択を選ぶ者は少なくない。それ自体は別に悪いことでないのだ。対ソウル団体の人間にとっては寧ろ有難いことだろう。
だがその後が問題なのだ。
死体はどうするのか。家はどうするのか。資産は、葬式は、戸籍は。誰にも伝えないで心中を行なった場合、様々な人間に迷惑をかけることになる。だからそれを防ぐため心中を行う前にボンドは家を売却したり資産の分配を決めたりと、自分たちができる最大限の準備をしてから心中をする。けれどそれだけは足りないため、信頼できる人間を呼び残りの処理をしてもらうのだ。迷惑をかける人間は一人で済む。要はそういう話だ。
「あのジイサンも酷ぇよなぁ。オジサンあの人にかなりお世話になってたし、それなりに尊敬とかもしてたからさ。断れるわけねぇよ。しかもそれをわかってて言ってんだから、ズルイ人だよ本当」
「……申し訳ありません」
「あー、ほらな? お前がそう言うのわかってたから連れてかなかったんだよ。なんで謝るんだ。お前はなんも悪かねぇだろ」
呆れ混じりに吐き捨て、相楽はガシガシと自分の頭をかき混ぜた。
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●龍●(プロフ) - そのためならいくら責め立てられようと構わない。そういう考えなのです…。文字制限で削ってしまった部分でもあったので、怜皇様が察してくださってとても嬉しいです…!! (2018年8月14日 11時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» わーまたまたコメントありがとうございます!! そうなんです、相楽の嘘は将来気づかれ責められたり憎まれてりしてしまうもので、けれどそれを覚悟の上で嘘を吐いたのです。今女子生徒が絶望に落ちるよりも、笑顔でいる方がいい。 (2018年8月14日 11時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
怜皇(プロフ) - わっわっそんな相楽さん(´;ω;`)相楽さんが女子生徒の笑顔を守るために嘘をつくところ、すごく心痛みました…卒業して外に出るようになった生徒に攻められ恨まれる可能性だってあるのに…相楽さん(´;ω;`) (2018年8月13日 21時) (レス) id: 0ed6205140 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» 怜皇様はどう思われるだろうか…と不安でした。なのでこうしてわざわざ来てくださり感想を伝えてくださった怜皇様の心遣いがとても嬉しいです!!リズィーさんと相楽と、そして怜皇様と作り上げた素敵な関係が表現できていたなら良かったです…! (2018年8月11日 22時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» わわわ怜皇様じゃないですか…!!こんばんは、早速見てくださりありがとうございます…!!こんなにもたくさんお褒めいただき、光栄であると共に本当に心から嬉しいです!今回は前話より更にリズィーさんを大胆に動かしてしまったような気がしたので、 (2018年8月11日 22時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
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