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「……ッ」
座っているだけなのにも関わらず、視界が揺れる。水分が足りていないせいか、朝はあれほど流れていた汗も今は止まってしまっていた。恐らく今また水を飲もうとしても、結果は変わらない。それどころか空っぽの胃の中から胃液を吐き出してしまいそうな気がする。よく見ないとわからないほど小さく、体が震える。身体が鉛を飲み込んだかのように重い。
……つい先程、絶対にやらなければいけないことは済ました。このまま寮に帰って寝てもいい。むしろそうするべきである。
だが、実はまだ別のやらなければいけないことは終わってはいなかった。確かに最重要のものは終わったが、それ以外にもやるべきことはいくつかあった。提出しなければいけない課題だとか、実技テストだとか、そんなことが。
どうせここまで来たのならば、最後までやり遂げられるだろう。いやそうするべきだ。自分ならば出来る、間違いない。
勇猛果敢に立ち向かえ。困難を恐れず、勇気を持って決断しろ。
立ち上がったドンの瞳は挑戦的に燃えていた。マスクの下で、口元は弧を描いていた。
「おい」
「待って」
立ち上がって力強く歩みを進めようとしたドンの両肩を突然、誰かがぐっと掴んだ。いつのまに背後に立っていたのだろう。それぞれ普段よりワンオクターブ低い声を出した男女は、真剣な表情でドンを見つめる。大きさも形も違う、彼の肩を掴む二つの手は、ドンを決して逃がさないと言うように力を込められたままそこにあった。
「? ……おお、シンシアとヤチヨか! どうしたんじゃ、そのように硬い顔をして。何かあったのか?」
普段と変わらず自然に返された反応に、シンシアが目つきを鋭くする。
「何かあったのか、じゃない。ドン、お前今すぐ帰れ」
「ぶはは、何じゃあ藪から棒に! お前さんたちも知っているようにな、わしにはまだやらなければいけないことが……」
「それは本当に、貴方がこんなに高い熱を出して、自分を追い詰めてまでやらなければいけないことなのかしら?」
ヤチヨが、こちらを振り向いたドンの首筋にぺたりと触れる。それから普通では考えられないほどのその熱を受け取って、表情を歪めた。想像以上に彼の容態が良くなかったからである。
ドンはその言葉を聞いて、ぽかんと口を開いた。
「賢いお前が今日、無理に登校した理由はわかった。俺もお前の立場だったらそうしていただろう、だから何も言わなかったんだ」
シンシアの彼自身の生き様を表すような真っ直ぐな瞳が、ドンを射抜く。
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