愛して、愛されて。【プロ野球】【短編集】

とししたの由伸くん/晴天・B18 ページ8

選手｜球団職員




9月に入ってシーズンも終盤戦。


まだ試合開始には程遠いお昼どき、
ひとりベンチ前の柵に座っていると。





「なにしてんすか」
「わ、由伸くん」



驚いた私にしてやったりな顔で笑った由伸くんは、

うーんと身体を伸ばして目の前の芝に座った。



「早く来すぎちゃったんだよね」
「珍しいっすねそんなん」
「なんか今日、落ち着かなくてさ」



へぇ、と空を仰ぐ由伸くんは、今日の先発ピッチャー。





……たぶん、彼も落ち着かないんだろうな。

手をぶらぶらさせて、軽いストレッチを始めた。






「ちゃんと、見ててくださいね」
「、うん」




由伸くんは私に背を向けて、どこか、遠くを見てる。




「Aさんは俺だけ見とけばいいんすよ」

「なにそれ笑」

「そのまんまの意味っす」




ふぅ、とひとつ息をついて、
ストレッチを終えたのか立ち上がった由伸くんが

太陽の光に照らされて、眩しい。







まだ背番号43をつけていたあの頃から、

飛躍し続ける大きな背中。



今や日本を代表する、誰もが認めるエースなんだな、なんて


分かりきったことなのに、頭の中をぐるぐる。


視界が、じわっとぼやけた。






「……ん」
「うわ、なに、」


不意に振り返って、自分の帽子を雑に私に被せた由伸くん。
視界が一気に塞がれる。






真っ直ぐに伸びた帽子の鍔を持ち上げると



私を覗き込む、彼の笑顔。








「今日も勝ってくるわ」


「！」




あとでその帽子もらいにきます、のひとことと

それを被ったままの私の頭を撫でて


ダグアウト裏に消えていった。




.




「………………余計さみしいよ、ばか」



独り言を呟きながら、由伸くんが被せてきた帽子を外す。


帽子だけ残してくとか、そんなの尚更……。

髪伸ばしてるのだって、誰のためだと思ってるの、もう。




すると、中からふわっと落ちてきた小さな紙。


「なにこれ、」


いつも由伸くんが見てるノートの切れ端だ。









" さみしい "








「っ、！」




さっき堰き止めたはずの涙なのに、なぁ。

とことん、ずるい人。




―――


書き方忘れましたね完全に(ごめんなさい)
新天地での活躍もたのしみ！

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