. ページ35
その瞳を前に一番最初に思ったのは、誰が言ったんだろう、ということ。混乱する私の背後でドアが閉まる音がした。「行こう」そう言ったナナは慣れた足取りで道路へ出る。
「今朝…いや、夜中にチソンから電話があったんだ」
隣を歩くナナはそう話し始めた。「ずっと黙ってたけど、もう無理だって。Aは日本の大学に行っちゃうから、今までみたいに簡単に会えなくなるって」
ナナの家はここから凄く遠い。きっと、今日も凄く早く起きたはずだ。夜中に電話をしていたと言ったから、睡眠時間も短かったはず。
そこまでして会いに来てくれたという事実だけで、その時の私には十分だった。
同じ通学路なのにいつもと違うように感じるのは、きっと卒業の日だからという理由だけじゃない。
「…どうして、俺に言ってくれなかったの？」
隣で足音が消える。彼より数歩進んだ場所で足を止めて振り返ると、瞳を潤わせたナナがいた。
無意識に、喧嘩したあの時が重なる。
「…怖かったの」
そう。その瞳を向けられるのが、ずっと怖かった。
「私、凄く弱いから。ナナならきっと、ずっといてって言うでしょ？」
「うん、言うよ。今だって、凄く言いたい」
「でも、いられないのは決まってることだから。どうすればいいか分からなくなっちゃうことが、すごく怖かったの」
前までの私だったらおそらくこの気持ちは口には出さなかった。でも、喧嘩をして仲直りをしたあの時から私達は変わった。互いに思っていることを伝えようって、そして受け止め合おうって、そういう形になろうって、約束したから。
「…A」
「言ってもいいかな」軽く首を傾げたナナは、困ったように微笑んでみせた。
その言葉に私は無意識に下唇を噛んでいた。
一歩、また一歩と近づいてきた彼の動きを拒むことはなかった。
「…うん」
きっとこれは避けられなかった運命なのかもしれない。どれだけ起きないようにしていたとしても、きっとこの言葉を受け取ることに変わりはなかったのかも。
それに、私はずっと、心のどこかで彼からのこの言葉を望んでいたのだから。
「A、日本に行かないで。ずっと俺のそばにいて」
身体に回った腕に込められた力は強いのに、発せられた言葉は反するように弱々しかった。思わず私の瞳から涙が浮かぶ。
私もずっとここにいたい。ずっと、ナナの隣にいたい。
すぐに離れたナナは「って言っても、困らせちゃうだけなのにね。ごめん」とわざとらしく笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1679人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ジュン(プロフ) - jen（読み垢です）さん» またコメントして下さり感激です…ありがとうございますTT 一区切りというところまでお話が進みますので、是非とも最後までお付き合い宜しくお願い致します！jenさんこそ日々の時間を割いて読んで下さり、本当にお疲れ様ですTT (2023年3月25日 5時) (
レス) @page31 id: 3eac17ee35 (このIDを非表示/違反報告)
jen（読み垢です）(プロフ) - 泣くほど待っていて、読んだら泣けてきました どうしよう…切なくて耐えられないです お話も一旦終わりに近づいているのかな…嫌だな…泣 ジュンさんお疲れ様です (2023年3月23日 21時) (レス) @page24 id: 8b083b7e19 (このIDを非表示/違反報告)
ジュン(プロフ) - jen（読み垢です）さん» わーー！jenさん！早速お声かけて下さり嬉しいですTT 本にしてくださいだなんて初めて言われました笑 そんな事を思ってくださるなんて感激しておりますTT これからも読んで下さる方が楽しめるような展開になるよう頑張りますね:) 待っていて下さい！ (2023年2月10日 17時) (レス) id: 2f0aad5d81 (このIDを非表示/違反報告)
jen（読み垢です）(プロフ) - ドキドキワクワクしつつの…５泣！他のお話とも絡んでいるし…ジュンさんすごい…本にしてくださいな！で、あちらも各先生の恋愛やらプロポーズやら知りたいし…待ってます^_^ (2023年2月10日 11時) (レス) id: 8b083b7e19 (このIDを非表示/違反報告)
ジュン(プロフ) - なんと…ついに5まで来てしまいました…これからも宜しくお願い致します！感想やご意見、ご指摘等ありましたら気軽にお声掛け下さい！ (2023年2月5日 11時) (レス) id: 2f0aad5d81 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ジュン
| 作者ホームページ：http://commu.nosv.org/p/baekotowhani/
作成日時：2023年2月5日 11時
