【僕のヒーローアカデミア】命懸け少年 Part4 (ページ19)

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潜熱ページ19

治｢チィ…ッ｣

あの人の舌打ちが聞こえるなり体に訪れたのは浮遊感。まるで、生き物であるかのように地面が動いている。

貴｢…っあ…｣

頼りのない体は衝撃に屁垂れた。されるがままに廻様の元に運ばれる。

緑｢廻輪！｣

緑谷君が僕に手を伸ばす。何をやっている…君が求めていいのはあの子だ。こっちに来るんじゃない。

辺りを見るとその小さな体も動く地によって持ち上げられている。その手は必死に空を描いて、何か布切れのようなものを掴んだ。無防備に危険に晒されているにも関わらず。

貴｢っ…デク！えりちゃんを！！｣

緑｢！っ…ごめん…｣

僕が手を伸ばせば触れることのできた距離。また距離は開く。彼のその、悲痛とも言えるような歪んだその顔は何を意味するか。

お前はヒーロー。救けて勝つ。そんな、優しいヒーローだから。

離れる背中を目で追った。

大丈夫。僕は。…僕だから。

治｢廻輪…！｣

背中に物体が触れる。それは、この体を包み込むようにして、温かくて溶けちゃいそうで。このまま一つになっちゃうのかとも思った。

貴｢か、い…｣

治｢……よく来た。もう離さない…お前は、お前だけは…絶対…｣

貴｢…え…？｣

その目は僕の像のみを捉えていた。瞳の中の僕は血や涙や埃で薄汚くて、ぼろぼろで。何だか自分じゃないみたいに見えた。

もっと見たくて、手を伸ばした。頬に触れた。怪物のような姿になったこの人を。

愛おしく思った。

…よかった、こわいのは、ぼくだけじゃない。

怪物は、僕だけじゃない。

暗闇を吐き続けるその嘴にキスをした。

一瞬だけ、触れるだけ。僕しか、この人にできないこと。僕がこの人の為にできる唯一のこと。

名前を呼ばれた。返事をした。抱きしめられた。

貴｢貴方…冷たく無いんですね。｣

治｢…そりゃ、生きてるからな。｣

貴｢そうですか…｣

治｢…お前も、温かいよ。｣

貴｢そう…ですか…｣

…ああ、この熱は。どうやら、僕等には熱すぎる。

貴｢廻様…｣

治｢何だ。｣

貴｢死なないでください…｣

治｢……｣

何も言わなかった。ただ彼は笑ったような気がした。だから笑い返した。抱きしめられる力が強くなった。

体温が、深い所にある熱が。あれ、体が、廻様の中に入っていく。比喩などではなく、そのままの意味。取り込まれている。僕の体が、この人の一部として構築されている。

治｢…俺の中で永遠に生きろ…廻輪｣

僕とあの人は、一つになった。