玖 風、もしくは水 -- Xiao ページ29
──魈様が、消えた。
否、居なくなったと表現した方が正しいか。朝起きたら、いつも側に居る筈の彼がいない。こんなことは、(強制的に)俗世から(半分ほど)引き剥がされてから初めてのことだった。
どこを探しても居ない。ヴェル・ゴレットに聞いたところで当てはない。
どこに行った?
幸い、私の体は3日ほど寝なくても十分活動できる。それをいい事に、璃月中を探し回った。
甘雨に知らないと言われた。いつも見当たるはずの煙緋も見当たらない。
違う世界に行ってしまったのか?
そう思うほど、手がかりが無かった。彼は優しいからと、私のことを好いてくれているからと、油断していたか。
……油断、か。私の不注意でもあったということか。魈様は私を裏切らないなど、自信を持って、確信を持って言えることでは無かったはずなのに。私は、ずっと甘えていた。彼の優しさに。
そこらにあったベンチに乱暴に座れば、カタンと乾いた寂しい音がした。
虚無感。何事にも変えられない虚無だけが私の心を支配した。
「こんなことになるくらいなら、あんな契約なんて……」
ない方がよかった。
そう吐き捨てる前に、影が落とされた。
俯いていた顔を上げ、人物を確認する。凛とした身なりの男性だった。長い髪を後ろでひとつにしている。どこかで見たことがある顔のような気がする。
……これも、彼にかけられた術のせいで忘れているのだろうか。私はひとまず頭を振って、相手と目線を合わせた。
「……私めになんの御用でございましょう」
「ふむ、丁寧な言葉遣い。間違いない、お前がAだな」
「は? 何故私の名を知っておられるのですか?」
デジャヴ。魈様の時の全く同じなのだが? 緊張感が一気に解けた。私は、おそらく間抜けな表情をしながら相手を見ていることだろう。しかしそれを直すことは出来ない。
いやそりゃそうだろ。初めてあった相手に名前を言い当てられたら間抜けな顔もしたくなる。
「言伝を預かっている。Aに伝えてほしいとな」
「……どなたからでしょう」
「ふむ。こういうとき、人間に合わせるなら……そうだな、降魔大聖と言えば伝わるか?」
「ッ、魈様! 一体何と!」
彼の名を聞いて、大きく反応してしまった。仕方あるまい、三日三晩寝ずに探しても痕跡すら見当たらなかったものをようやく見つけたのだ、ここで手放さずにはいられない。
私は胸ぐらを掴みかかる勢いで彼に顔を近付けた。
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