肆 別れは一人で告げるべきではない--Zhongli ページ13
婆さんが亡くなった。随分と、唐突なことだった。婆さんは皆が言うところの半仙であり、酒を飲むのと、璃月の昔話をするのが大好きな人だった。
なんでも、大人気法律家の煙緋殿よりも長生きだったとか。まぁ私には関係の無いことだ。
「お悔やみ申し上げる、A殿」
「……恐れ入ります、客卿」
婆さんは半分とはいえども仙人だから、こうして往生堂を頼ることになった。大分血が薄くなってるとはいえお袋も私も仙人だ、いずれ頼ることになるだろう。
それにしてもあのクソ女、どこに逃げたんだ。婆さんの葬式全部押付けやがって……。悲しむことさえも許されないのか。
「A殿は立派であられるな。お若いのに、喪主をきっちりとこなされるとは」
「恐縮です、鍾離殿。若造ですが……まぁ、母がいないので。拙くとも役目は果たさねばなりません」
感情がないわけではない。大好きな婆さんが亡くなって、もちろん悲しい。だが仙人の場合は少々葬儀が特殊なため、やることや覚えることが多いのだ。感情を表に出す暇がない、と言った方が正確か。
往生堂の客卿──鍾離殿は、親のように私を見つめる。なぜそんな目線を向けられているのかよく分からないが……好意は受け取っておこう。損は無いし。
「それにしても、鍾離殿は博識ですね。うちの婆さんの親のこと、よく知ってらっしゃって……孫の私も詳しくないのに」
「ただの職業柄だ。それに、記憶力が良いだけだ」
「そうですか。いいえ、それでも感謝しています。婆さんの親の話を聞く機会なんて、滅多にないものですから」
私は袖をぎゅっと握りしめながら、婆さんの遺体が収められている箱を見た。
他人から、少しでも婆さんに関わる話を聞けるだけで、きっと今後は幸せなのだ。岩王帝君のように、亡くなってもなお、語り継がれる仙人は多くない。
──そういう意味では、鍾離殿は私にとって有難い存在となる。私の他に、婆さんや、その家族のことを知っている人だから。
「半仙とはいえ、突然の死であったな。何か前触れでもあったのか?」
「前触れ……いえ、特になかったかと。強いて言うなら、酒を飲むのが好きな方でした」
「酒……そうか。酒が好きだったんだな」
そう言うと、彼は何故か嬉しそうに笑った。その意味を私はちゃんと理解出来なかったが、まぁ適当に彼も酒が好きなのだろうと思うことにした。
真実は、後に知ることになるのだが。
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