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「どっか行きたい屋台とかある?」
オレンジ色の提灯の灯がたくさん見える中、彼が周りの音に消えないよう耳の近くでそう言った。
「……リンゴ飴と焼きそば」と私も同じように言えば、ニコリと彼は笑った。
「前行ったときも確かそれ買ったよな」
「うん」
「ほんと好きなんだな」
「……好きだよ」
斜め下、鳥居から続く石畳の道を見つめながら言う。
深い意味など特にない。ただ、純粋に好きなだけだ。
私の好きなものばかり買って、私ばっか楽しむのはなんか肝に触ったので、彼にも同じ質問をする。
「行きたい屋台とかないの?」
「俺?んー、特にないかなー」
「えっ、ないの?」
「うん、だって俺、ただAちゃんとこの祭りに行きたかっただけだし。」
カランと私の下駄の音が祭りの音に負けないくらい、大きく響く。
なぜか彼の顔を見ることが出来なくて、ぼんやりと祭りを楽しむ人達のことを眺めた。
「それに、」と彼はそのまま話を続ける。
「Aちゃんが楽しんでくれたら、俺も楽しいからさ!」
鼻の下を人差し指で擦り、軽く頬を赤らめながら優しく笑って、彼はそう言った。
あぁ、ほんと、貴方には恥ずかしいという言葉は似合わないな。
「そっか」
「おう!…あ、リンゴ飴の屋台見つけたから行こうぜ!」
「……うん」
彼はそう言うと少し早足になり、一足先にその屋台へと向かって行ってしまった。
そんな彼の後ろ姿をずっと見つめていたら、いつの間にかその場で立ち止まっていて。
私の横を通り過ぎていく人達が不思議そうに、迷惑そうに、見つめてきた。
巾着の紐をキュッと握る。
少し前から楽しもうって私は考えてたのに。
彼は“もう既に”この祭りを私と楽しんでいるんだって思ったら、なんだか…………
(私1人、空間が違うみたい…)
ほんのちょっと手を伸ばせば届く距離にいるはずなのに、
りんご飴を手に屋台のおじさんと楽しそうにお話をしている彼と、離れたところでポツンと立っている私の、この今の距離みたいに、
否、それ以上に、
彼はずっとずっと遠くにいる気がして__________
「Aちゃん!」
そう、太陽のように明るく笑う彼に、
また胸が締め付けられるように痛んだ。
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れな(プロフ) - しっぽうさぎさん» 素敵な感想ありがとうございます!とっても嬉しいお言葉ばかりで…書き手冥利に尽きます´ `* これからもまったり更新ですが最後までよろしくお願いします!高校時代はまだ公式さんから何も言われてなかったので、自由に想像しながら書けてたんですけど…焦ってます;; (2019年2月16日 9時) (レス) id: f22e3e55d7 (このIDを非表示/違反報告)
しっぽうさぎ - 読み始めた瞬間『あ、この作品好きだ。』と感じました。久々の感覚と、久々に好みな作品を見つけられて最高に嬉しいです。関係無い話ですが、私も前におそ松さんの学生ストーリーの作品を作って、あら公式と違うわとなりました。…共感です。笑 (2019年2月14日 18時) (レス) id: dc9d359d93 (このIDを非表示/違反報告)
れな(プロフ) - 来夢*゚さん» 初めまして。素敵な感想ありがとうございます!キュンとくる内容になってるか微妙だったのでそう言って貰えてとても安心してます。のんびり更新な感じではありますがどうぞ最後までお付き合いよろしくお願いします ^ ^ (2018年5月6日 6時) (レス) id: f22e3e55d7 (このIDを非表示/違反報告)
来夢*゚(プロフ) - 初めまして。学生特有の甘酸っぱい恋物語に当方毎回楽しみにしながらキュンキュンさせてもらってます(〃ω〃) これからも頑張ってくださいね。応援してます! (2018年5月5日 16時) (レス) id: 522dbc585e (このIDを非表示/違反報告)
万珠沙華(プロフ) - レスありがとうございます!! (2018年4月22日 20時) (レス) id: a8300dcf2b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:れな | 作成日時:2018年4月19日 19時