偽り夫婦【Kenshiro.K】 (ページ28)

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『Aちゃん。』

「賢志郎さん…」

「ごめんなさい、出そうとは思ってるんですけど…
なんか、ここから先に踏み出せないんです。」

『……』

「決めたのは私なのに。これを出したら賢志郎さんにもう
会えなくなると思うと、出せないんです。」

またそんな事言って。俺、単純やから期待してまうよ？

Aちゃんも俺の事まだ好きなんかなとか。
ほんまは別れたくなかったんかなとか。

『なら、出さんでええんやないかな。』

「いえ、そう言う訳には行きません。
私の勝手な感情で賢志郎さんの今後を縛り付けるようなことはしたくないんです。
賢志郎さんには、本当に好きな人と、本当に幸せになって欲しいです。」

『その本当に好きな人がAちゃんやって言ったら？
本当に幸せになりたいのはAちゃんとやって言ったら？』

「何言ってるんですか…」

あの日渡すはずだった指輪を差し出した。

『お義父さんを気にしてるんやったら大丈夫。
俺は、Aちゃんと一緒になれるなら殴られる覚悟も出来てる。』

『Aちゃんとまだまだ行きたいところあるし、食べたい物もある。まだまだ教えたい事もめっちゃある。
これからの思い出は、Aちゃんと作って行きたい。
やから。策略とか、親父の仕事の関係とかやなくて、俺の恋人として結婚してくれませんか。』

今の俺に出来る、精一杯のプロポーズ。

「賢志郎さん…」

『ん？』

「私も…賢志郎さんとこれからも色んな思い出作りたいです。
私からも、恋人として…お願いします。」