偽り夫婦【Kenshiro.K】 (ページ17)

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---川西side---

あの日、帰りが遅くなると伝えたあの日。

確かにAちゃんと目が合った。

『ごめん、やっぱり無理やわ。帰る。』

《何で？ここまで来て？》

『明日、朝早いん忘れてた。』

《賢ちゃん今までそんなの気にしてなかった。》

『ホンマにごめん。相方には迷惑かけられへんから。』

結局、あいつとは何も無く帰ったけど、まさかあんなにごねるとは思わなくて。

あいつと別れた後
どこまで見てたのか分からないままAちゃんに合わせる顔がなくてビジネスホテルで過ごして帰ってきた。

結局帰ったのは昼すぎ。
玄関の前。あのAちゃんの顔を見ると、開けることは出来ない。

何て言い訳すればいい？言い訳やないとしても、何て説明したらいい？
そもそも、どんな顔して会えばいい？

でも、いつまでもこんなとこに居たって何も始まらない。

『ただいま。』

「おかえりなさい、賢志郎さん。」

いつもと変わらない様子のAちゃん。

「お腹空きましたよね。すぐに用意します。」

変わった事といえば、この会話の間、目が合わなかった。

「どうぞ。」

『あれ…Aちゃんは食べへんの？』

「すみません。ちょっと調子悪くて。」

「そっか。」

調子が悪いのって、俺のせい？

「賢志郎さん。ご飯食べ終わったらで良いので、これ、書いておいてください。」

そう差し出されたのは、緑色の縁をした紙。
半分は埋まりきっている。

やっぱり、昨日の夜の事観てたよな…

あの日、無理やりにでもすぐ帰ってたら？誘いを断ってたら？

いつも通り、あいつの連絡を返してなかったら？

結婚が決まったあの日、すぐに別れていたら？

そんなタラレバが頭をぐるぐる回る。

そうやんな。考えたら分かることやん。

Aちゃんを失うことに比べたら、週刊誌に売られることとか、元カノに罵倒されることなんて何も怖い事やなかったのに。