御幸せにファムファタル／３ ページ46
「Aさん、今日は海に行こう」
その日は、近所の海岸を当てもなく散歩した。
吹く風が少し肌寒くて、また夏頃に来たいと言えば酷く困った顔を浮かべられた。
「そうだ、電車で遠出をしよう」
彼がそう言ったから、ノープランで電車に乗った。
居眠りをした隙に全く知らない駅に着いて居て驚愕したけど、斑さんに手を引かれ歩いた街並みはとても幻想的に思えた。
今度は是非とも計画を立てて来てみたい、そう言えば、斑さんは曖昧な笑みを作った。
「買い物でも行こう、荷物持ちでもなんでも付き合うぞお！」
突然家に押しかけてきた彼は突拍子もなくそんな事を言って、私を外へと連れ出した。なんでも昨日から約束をしていたらしいが記憶にない。
ショッピングなんて、一人だと滅多に行かないのと隣に彼が居たから、眩しいくらいに充実したものに思えたけど、斑さんはずっと浮かない顔をしていた。
.
「治る方法、まだ見つからないんですね」
「…そうだなあ」
いつもの大袈裟な反応と比べると別人とも思わせるような、静かなトーンであった。
「私、もう殆ど覚えて居ないんです」
ぽつりと、囁くように打ち明けた。
「多分、明日で忘れます。…全部」
それは、鉛のような言葉であった。空気も、まるで湿気に包まれているように重く感じた。
空は虚しいくらい晴れているのに、湿気を感じるだなんて可笑しな話だ。
何も言えない癖に、彼は心底困ったように笑う、まぁ何を言われても納得なんて出来ないだろうから、それが模範解答なのだろう。
「私が忘れたら、斑さんも、私のこと忘れてくださいね」
「はは…随分と、勝手な事を言うんだな」
くしゃりと、端整なその顔がこれ以上ない程までを歪んでいるのを見て、そういえばここ数日、ずっと彼の笑顔を見れて居ない事を思い出した。
この状況で笑えだなんてとても言えたもんじゃないけど、最後に笑顔が見たかったなぁ、なんて。
明日になったら忘れる癖に、そんな莫迦な事を考えた。
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苺果汁(プロフ) - とくめい様、ねむい様、素敵な作品をありがとうございました！ (2018年11月6日 0時) (
レス) id: d7b47249f9 (このIDを非表示/違反報告)
苺果汁(プロフ) - コメント失礼致します。殆どの夢主やあんスタキャラが自殺を選ぶ中で三毛縞さんだけが彼女の幸せを願って生き続けることを選んでいるのが胸に刺さりました。三毛縞さんのソロ曲が彼の本心であるのなら本当にそう行動しそうだなと思い、思わず涙が出てしまいました； (2018年11月6日 0時) (レス) id: d7b47249f9 (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - まめだいふくもちさん» わああまめさんありがとうございます光栄です…！コメント見た瞬間息止まりそうでした本当にありがとうございました…！ (2018年3月21日 8時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - コメント失礼します。お二人とも好きな作者さまなので、お二人の合作短編が読めてとても嬉しいです。忘愛症候群という切ない題材を繊細な文章で書き上げられていて、どの話も素敵でした。作品を書いてくださってありがとうございました！ (2018年3月18日 21時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
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