しゃる・うぃー・だんす?/3 ページ13
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「 雨降りそうじゃないですか 」
彼女の手を引いて出てきたのは屋上だった。空中庭園のようになっているそこも、今は黒い影で覆われている。確か君は、雨が嫌いでしたね。舌を出しながら苦い顔をする彼女に、今は苦笑するしかなく。
目の前の空気が、酷く歪曲して見えた。
「 …Aちゃん 」
「 はい 」
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「 俺は、君のことが好きでした 」
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そう告げてから初めて、それが過去形になっていたことに気が付いた。想いを全て捨ててしまえたら、どんなに楽だっただろうか。言葉にして、形だけ過去形にしても、心はずっと変わらない。
「 青葉、… 」
「 Aちゃん 」
言葉を失ってしまった彼女の手を取った。今日初めて触れたそれは、とても小さくて脆くて。自分自身を否定するように、なにか思いつめた表情の彼女に笑みを向ける。
こんなことを口にするのは物凄くキザかもしれないけれど、これが俺の“ 精いっぱいのさいご ”なんです。
「 俺と踊ってくれますか? 」
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曲なんて流れていないのにふわふわとステップを刻めるから不思議である。初めから、どうしたらいいのかなんて、選択肢は一つしかなかったのに。覚束ない足取りだけれど、彼女のことをリード出来たのなら。“ Aちゃんの記憶 ”をリード出来たのなら文句は言わない。
だからせめて、この瞬間が終わるまで、体が動いて欲しいだけ。
「 …ごめんなさい 」
「 へ、何がですか? 」
「 全く、思い出せないんです 」
「 ……ふふ、気にしてませんよ 」
目の前はとうに霞んできているのに。彼女の顔だけがぼんやりと見えて、そのはっきりとしない輪郭に涙を堪えた。彼女の手を一層強く握る。嫌だ、離したくない。つらい、くるしい。そんな思いがぐるぐると渦巻いて、もう何が何だか分からなくなってくる。
最期の最期まで、この手を離したくなかった。
最後のステップで彼女はくるりと回る。腕の中に閉じ込めて笑ってみれば、彼女は驚いたように目を見開いた。その瞳を潤ませてしまったことだけが、心残り。
「 Aちゃん、また明日 」
「 は、い… 」
また明日。
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苺果汁(プロフ) - とくめい様、ねむい様、素敵な作品をありがとうございました! (2018年11月6日 0時) (レス) id: d7b47249f9 (このIDを非表示/違反報告)
苺果汁(プロフ) - コメント失礼致します。殆どの夢主やあんスタキャラが自殺を選ぶ中で三毛縞さんだけが彼女の幸せを願って生き続けることを選んでいるのが胸に刺さりました。三毛縞さんのソロ曲が彼の本心であるのなら本当にそう行動しそうだなと思い、思わず涙が出てしまいました; (2018年11月6日 0時) (レス) id: d7b47249f9 (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - まめだいふくもちさん» わああまめさんありがとうございます光栄です…!コメント見た瞬間息止まりそうでした本当にありがとうございました…! (2018年3月21日 8時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - コメント失礼します。お二人とも好きな作者さまなので、お二人の合作短編が読めてとても嬉しいです。忘愛症候群という切ない題材を繊細な文章で書き上げられていて、どの話も素敵でした。作品を書いてくださってありがとうございました! (2018年3月18日 21時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
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