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泣き疲れて横で眠ってしまっているAに、自分が着ていたパーカーをかける。
予想通り、長いことかかった。
Aの顔にがっちりホールドされていた腕は、未だにそのままだ。
「...そろそろ勘弁していただきたいのですけど、」
一言断りを入れて、その手からそーっと引き抜く。
固まった腕をほぐしながら、小さく伸びをする。
森口さんたち、今頃どうしているだろうか。
送ったLINEはまだ未読のままで、やっぱり大変なことになっているんだろう。
...森口さんは多分、俺がAを好きだと最初から分かってる。
サシ飯の話題はだいたいA絡みだし、無意識に話してくれているように見えて、彼女なりに気を遣ってくれているんだろうと、行動の随所に滲み出ている。
今度会ったら、ちゃんとお礼しよう。
あと、脚本すっ飛ばしてキレてしまったお詫びもしなきゃ。
あれは自分でもよく覚えてない...というか自分じゃ、なかった？
堪忍袋の緒が切れるとはこういうことなのか、と今更になって思う。
別にまだ何でもないのに、自分のオンナとか言っちゃってさ。
Aを見る。
重力に負けて落ちている前髪の分け目から覗く額が、少し青白くなっている。
そういや弁当箱ぶつけられてたって、猪狩が言ってたな...。
顔に触れると、思ったより冷たかった。
...なんか胸が痛い。
何もできなかった後悔と、少しの期待と、このままでいいという安定志向がせめぎあって、もう何がなんだか分かんなくなってきた。
好きだと言ったら、Aはどんな顔をするだろうか？
...おそらく、困った顔をする。
どう返事しようか困惑しているAの顔がすぐに思い浮かぶ。
そんな顔を見るのはちょっと嫌だ。
彼女にはずっと笑っていてほしい。
しばらく手を当てていると、自分の体温で少しだけAの顔も暖かくなっていた。
暗い車内。
ここにいるのは2人だけ。
自然と顔が近づいていく。
...いやだめだめだめダメダメでしょ！！
どうした俺！！理性を呼び戻せ！！
手を迅速に離し、両手でハンドルを握りしめる。
ホントマジでなにやってんの、俺！！
「っくしゅん！」
え！！起きた！？
ばっと横を見る。
...どうやら小さくくしゃみをしたようだ、未だぐっすり眠っていらっしゃる。
はぁ、良かった。
それにしても相変わらず寝顔は高校の時からかわいい。
...ごめん、少しだけ！
俺はAのおでこに軽くキスして、それから意識を手放した。
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作者名：Momanao | 作成日時：2021年1月4日 1時
