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「A?大丈夫?」
『─────!大丈夫大丈夫』
ボーッとしてしまっていたらしい。
めいが不思議な顔で此方を覗き込んでいて、私は焦って顔を逸らした。
頭がぼうっとしていて、本調子では無いのが痛い程わかる。
原因はきっとさっきコンビニを出る時に嗅いだあの匂い。
無意識に「番」だなんて口走っていた自分に驚きを隠せない。
「A、なんか顔色悪いけど大丈夫なの?本当に」
『あー、いや、多分ここに来る時にヒートのΩに会ったから多分それかも。抑制剤は飲んだから直に治ると思う』
「…そっか、それならいいんだけど。苦しかったらちゃんと休んでね?」
『うん、ありがとう』
めいは本当に心配そうに此方を見ていて、心が痛む。
騙しているわけではないけれど、少しでも事実と違う事を話してしまった事は紛れもない事実だから。
『ねえ、めい?』
「んー?」
問題を解いているめいに声をかけると、めいはすぐに手を止めて此方を見た。
『…めいって運命信じる?』
「運命?」
私の言葉にめいは双眸を見開いてゆっくりと言葉を発した。
「…ないと思うよ、俺は。なあにまさかαとΩの番の話?」
『…んー、まあそんな所』
「Aからその話するの珍しいね。何かあったの?」
流石、というか 私がわかり易すぎるのか、めいは何かを勘繰ったのか問いを掛けてきた。
私だって運命なんぞ信じていない。
あんな言葉を口走ってしまったのはさっき薬を渡したΩの女性に毒されたからだろう。
『ヒートのΩを抑えるのは抑制剤と番の存在でしょ?だから、あの女の人にも運命の番が居るのかなって思っちゃっただけ』
「…それってAにも運命の番がいるってこと?」
いつにも増して真剣な顔のめいが私の視線を掴んで離さない。
口を開くのもやっとで、声が上手く出ない。
…私はどこかでそう思ってるっていうこと?
「まあ、実際Aにも俺にもわかんないよね。…俺は運命なんてまやかしだと思ってるけど」
そう言い放っためいの見詰める先は私ではなくてもっと先のような、大きな憂いを含んでいるように見えた。
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作者名:弥雲 | 作成日時:2021年9月24日 11時