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「俺は正直、運命の番とかそういうの信じてるよ」
何の曇りもない目で私を真っ直ぐ見詰めるあらきさん。
どうしてこうも私の周りには美形が揃っているのか、目なんて逸らせないじゃないか。
『私は、』
「知ってる、大丈夫。Aちゃんもそういうのは信じてない方だもんね」
あらきさんは飲み物をひと口飲んで、再度私の方へ向き合う。
「まふくんから聞いたよ、Aちゃんがなるせのフェロモンにあてられたこと」
息の詰まる感覚がした。
頭に酸素が回らない。
何かを、何か言葉を発しなきゃ肯定になってしまう。
……けど、どうして私は事実を否定までして、嘘を重ねる?
「察しのいいAちゃんはもう既にわかってるとは思うんだけど、俺はAちゃんとなるせは運命の番なんじゃないかなって」
ちがう!と大声で叫んでその場から立ち去ってしまいたかった。
しかしそれができないのは、どこかでその事実を受け入れている自分がいるからだと思う。
『私には番は作る資格はありません』
「…Aちゃん」
『あらきさんの大事な幼馴染を傷つけたくはないんです』
私の言葉にあらきさんは一瞬黙ったが、またすぐに口を開く。
「なるせさ、番を毛嫌いしてるって話前にしたと思うんだけど、その理由って、αの母親が番とその間にできた子供…なるせのことを置いて出ていっちゃったからなんだよね」
その話を聞いて、私の中での彼奴の台詞が繋がった。
あそこまで酷く私に怒りを顕にしていた理由がやっと、やっとわかった。
「わかってると思うけど、そのせいでなるせの父親は亡くなって、もちろん母親とは連絡取れてないし、きっともう亡くなってるだろうね」
あらきさんは遠い記憶を思い返すように宙を見つめ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
私は何も言えずにそんなあらきさんを見ていることしかできなかった。
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作者名:弥雲 | 作成日時:2021年9月24日 11時