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｢失礼します。｣
さっきまで手に持ちながら読んでいた書類を置き、眼鏡を外しこちらに目を向ける社長。
｢どうした？｣
｢今日、レッスン中にSMentertainmentからスカウトスタッフが来ていたのをご存知ですよね？｣
｢あぁ、もちろん。
その人にはAが引き抜き枠じゃないのを伝えてあるが、何かあったのか？｣
社長は先を読む力に優れている人だ。
｢実は…───｣
男性から話された事を手短に伝えた。
｢成程…。これまた予想外な事が起きたねー。｣
何故か楽しそうに笑う社長に私は着いて行けなかった。
そんな私に気づいたのか、社長が話し出した。
｢Aも知ってると思うけど、他社から引き抜きするにはその事務所から許可が必要だよね？｣
｢はい。｣
｢だから引き抜きをする際は両社が話し合うのだけど、話し合うには時間が掛かるため、他社から引き抜きを行う会社は少ないんだ。
だけど最近では我社でもしてる《初めから引き抜き枠を作る》会社が増えた。
そうすれば、"話し合い"の場が飛ばせるようになった。｣
｢他社に視察に来たスタッフがすぐにスカウトが出来、練習生が同意すればそのまま移行出来るんですよね。
よく考えられてると思います。｣
｢その分、引き抜き枠外にはスカウト出来ないんだけどね。
で俺が笑ったのは、そのどちらにも属さないAを引き抜きでは無く社会見学に招待するって思考が、ぶっ飛んだ考えで笑っちまったんだよ。｣
｢変な奴がいるもんだ！｣と嬉しそうな社長。
社長は前から、変わった人を好む習性がある。
ま、その一人に私が入るんだけど。
｢で、私はどうしたらいいですか？｣
社長に問いかけると、社長は数秒黙り込んだ。
｢…いいんじゃない？この人が言うように、将来Aは人脈が必要とされる。
未来アイドルになる子達と繋がりを持てば、将来助けてくれるはずだ。｣
私にはメリットしかないと話をする社長。
｢社長は複雑じゃないんですか？｣
｢そりゃ〜、将来有望なうちの作曲家が他社に行ったら痛いからな。｣
私はPLEDISを出る気は無い。
だって学生の今から内定を貰っている様なもんだから。
会社にも人にも不満はおろか、むしろ気に入っている。
｢社長、私決めました。｣
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作者名：ゆうなす
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b115645c0f1/
作成日時：2022年9月29日 18時
