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再び、追われて ページ33

「待て、柏原さん」

『嫌。来ないでくれないかな』

雨の中、傘もささずに冨岡さんから逃げる。
じっとしていられなくなって、夜風に当たろうと思ったらこれだ。
全く嫌になってしまう。

「…一体どうしてしまったんだ」

こっちが聞きたいよ、そんなこと。

『構わないでよ』

初めて会った日も、こうして追われていた。
もう出会わなければ良かったとすら思っている。

こんなことで傷つくなんて、馬鹿みたいだよな。

振り返ると、目が合った。

「…柏原さん」

まだ、そんな目で私を見る。

その理由も分かる。
私を見ると、命を取り零す恐怖が蘇るからだ。

冷たい雫が、皮膚に染み込んでいく。

『大丈夫だから…もう鬼なんていない。
私を護ろうとする必要はないんだよ』

「そういうことでは…」

『だから、もういいよ』

冨岡さんに背を向けて、走り出す。
とりあえず一人になりたくて。

あぁ、知らなきゃ良かった。

ずっと、あの変な関係でいたかった。


「柏原さん!」

あふれる後悔を切り裂いて、冨岡さんの声が耳に届いた。
そして、視界が一気に晴れたようだった。

『あ…』

右側が眩しい、と思えば自動車がすぐそこに迫っていた。

ぶつかる、と思ったとき

音は消えた。

甲高いブレーキの音、雨が地面に叩きつけられる音、
冨岡さんの声も、全部消えた。

それから、ゆっくりと時間が流れだす。

私はひとりでに、記憶を辿っている。


幼稚園から学生時代、冨岡さんの姿はなかった。

それから、出会った日。あの日の恐怖は鮮明に焼き付いている。

隣に越してきて、職場にやってきて。

一緒にご飯食べたり、野球とかサッカーしたり。
看病してもらったり、お姉さんに会ったりもして。

大したことしてないな、と思い至る。

けれど満足だった。

楽しかった。


たった一瞬のうちに、一生分の思い出が駆け巡った。

これが走馬灯か。

こうやって死ぬのも、悪くないかな…


「…柏原さん!」

まただ。
冨岡さんの声だけが聞こえた。

こっちに走ってくるけど、多分間に合わないよ。

…私が死んだら、冨岡さんはどうなるだろうな。


動かなくなった体に、喝を入れる。
やっぱりまだ死ねない。

我妻善逸→←真相



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いのり(プロフ) - 義勇と杏寿郎推しさん» 最後まで読んでくださってありがとうございます!締めが善逸くんですいません(笑)これからも夢主ちゃんをよろしく頼みます!よかったら他の作品も応援お願いしますね! (2021年11月6日 20時) (レス) id: c234760d5a (このIDを非表示/違反報告)
義勇と杏寿郎推し - 我妻…、(何でお前が最後で締めるんだ…)?完結おめでとう…。次は、誰の書くんだ…?良かったぞ。これからも夢主と仲良くするつもりだ。冨岡義勇だ。これからも頑張ってくれ。 (2021年11月6日 15時) (レス) @page42 id: e9e5935c56 (このIDを非表示/違反報告)
義勇と杏寿郎推し - なんて言う悲しい匂いだ…。本当に人違いですかね?俺の鼻は人違いでは無いって言ってます。竈門炭治郎です。続き楽しみにしています。 (2021年10月20日 7時) (レス) @page32 id: 38350d71b2 (このIDを非表示/違反報告)
いのり(プロフ) - 釜さん» ありがとうございます!とても励みになります♪これからも応援いただけると嬉しいです! (2021年9月18日 8時) (レス) id: c234760d5a (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - こんばんは!ほんわかしたお話で、描写も綺麗で好きです! (2021年9月17日 21時) (レス) id: e08aae1730 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:いのり | 作者ホームページ:http  
作成日時:2021年8月13日 20時

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