歩む道。7

322 side Nissy ページ22

次の日。
二人で事務所に向かった。


Aがここに来るのは
あれから初めてだ。
この場所が
Aにとって恐怖ではないのかと
思ってそれとなく
聞いてみたけど。



とにかく、
目の前のあいつらへの恐怖感。
感じた絶望や後悔。

言われた言葉。
ピアスを踏まれた音や、
ネックレスが切れた感触。

押さえつけられたり掴まれた感触。


そういうものは
鮮明に覚えている。


でも。


場所とか、状況とか、
あまり詳しく覚えていないらしい。



「それに、今はたかがいてくれるから。


怖くない。」



と笑うAの頭をそっと撫でて、
社長室へ向かった。




そして
社長とチーフにAの退職のことを伝えた。



そうか、
と一言言った社長と
何も言わず、
Aを抱きしめたチーフ。




「 ご迷惑をおかけします。」



チ「迷惑なわけないでしょ。

速水が決めたことを私は応援する。
仕事の事も、
そりゃかなり大変になるけど、
なんとかするから！」



「ありがとうございます。」


その様子を見たあとに
俺は社長に向かって言った。



西「社長。

前に…。
AAAと速水、
どっちをとるかって聞いたのを覚えてますか？」





社「あぁ。もちろん。」



西「あの時、ちゃんと答えられなかったけど。
今ははっきり言えます。



俺はAAAを選ぶ。」




社「それは、どうしてだ？」




西「今、手を離しても、
ちゃんと俺達の道は繋がってるって
信じられる。


それに。



俺がAを選ばなくても
AがAの意思で
俺の隣にいてくれるから。」



そう言って、Aに視線をやると、
小さく頷いて笑ってくれた。




社「覚悟を決めたんだな。」




じっと俺を見据える社長の目を
真っ直ぐに見返して



西「はい。」




と答える。




しばらく黙ったまま、
目をそらさずにいた社長。




社「速水が傷を乗り越えるのと、
西島が…そうだな…



ソロでドームツアーを成功させるのと
どっちが先か見ものだな。」




西「は？ドームツアー？」




やっとグループでドームに立てた去年の秋。
今年の秋にはグループで初のドームツアー。

そして、ソロの2ndツアーの追加公演として
ドーム公演がほぼ決まってるけど…



ソロでドームツアー？
考えるだけで体が震えた。



社「目標は3年以内。」




にやりと笑った社長が、
俺に拳を突き出した。



「やってみせます。」



ゴクリと唾を飲み込んで
俺はその拳に自分の拳を合わせた。

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