～小さな世界～【永瀬廉】 (ページ19)

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永瀬『早よ出よ。』

「え、今呼びましたよね？私の名前！」

永瀬『…もうええから。』

「Aって言いましたよね？」

恥ずかしいのか

鼻をさすりながら目をそらす永瀬さん。

みるみるうちに耳を赤くするので

これは照れてる時の仕草だと察した。

でも、私はなにより

名前を呼んでくれたこと。

密かに名札を見てくれていたこと。

それがとても嬉しかった。

いきなり下の名前ってのがまた

距離感が全然掴めてなくて不器用で永瀬さんらしい。

「ふふふ、…」

永瀬『…なに。』

「…何もないです。…ふふふ」

永瀬『……』

ちょっとだけ永瀬さんの眉間にシワが寄る。

あれ、怒ったか？

そして、

「…ん！！」

永瀬『……』

そっと伸びてきた永瀬さんの右手は

私の頬をムニュと悪戯に指でつまむ。

「…え、イタイ。」

永瀬『…ふふ』

なんだこれ。

なんだこの状況。

男性用トイレの中で

私の身体にのし掛かったままの永瀬さんに

頬をつままれて笑われる。

この状況は果たして…ありなのか？

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永瀬『……』

「……」

じっと私の瞳の奥を捉える。

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そのままゆっくりと

綺麗なお顔が近いてくるので、

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「なにをしようとしている？」

永瀬『……』

今度は

私が両手で永瀬さんの顔をパチンと挟む。

永瀬『痛い。』

「強めに叩きました。すいません。」

永瀬『……』

私はすぐさま立ち上がり

永瀬さんの身体を持ち上げて車椅子に乗せた。

そのまま黙って部屋へと連れて行く。

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永瀬『怒った？』

前を向いたまま

不安そうな声を出す永瀬さん。

「……」

私は、ちょっとだけ警戒心を無くしていた。

永瀬さんに対して。

赤ちゃんみたい

小動物みたい

ライオンみたい

美しい人形みたい

と、失礼ながら

永瀬さんを勝手なイメージで

いろんなものに例えてきたけれど、

何度も言いますが

彼は人間で、

ましてや成人した大人で、

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「何故そう思うのですか？」

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彼は、

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永瀬『キスしそうになったから。』

ただの男だという事。

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