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じっと見守られながら
私はパクッと一口食べてみた。
味は薄い。
むしろ緊張が増して味がしない。
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永瀬『全部あげるわ、それ。』
「……」
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いらない…ですけど。
と、戸惑う私と
どこか誇らしげな空気を醸し出す永瀬さん。
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もしかして。
いや、ないか。
ないない。
永瀬さんに限ってそんな事
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永瀬『…昨日のお礼。』
「……」
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私は、
永瀬さんの言葉の意味を理解するのに
かなりの時間を要した。
だってあの永瀬さんが
無口を貫く永瀬さんが
昨日のお礼…だなんて。
それに、
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「……」
思わずまたありがとうございます。
なんて言いかけたけど、
これは貴方が食べるべきロールパンだし
私、別にロールパンは好きじゃないし。
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まんまとロールパンを受け取り
一口食べさせて頂いたお礼まで言いそうになるほど
私は永瀬さんの行動に驚いていた。
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「…永瀬さん。」
永瀬『……』
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一口かじったパンを見つめながら
どう伝えたらいいのかと迷いながら
恐る恐る口を開く。
「……お礼はいらないです」
永瀬『……』
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パンを一口分にちぎり
再びそれを永瀬さんの口元へ持っていく。
「そのかわり、食べて下さい。」
永瀬『……』
「…お願いします。」
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永瀬さんの瞳が微かに揺れる。
「……」
永瀬『……』
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信じて
お願い
そう念を込めるように
私は腕を上げたまま、
永瀬さんの反応を待ち続けた。
そして、
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永瀬さんの顔がゆっくりと私の手元に近づき
小さく口を開けて
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私の指に一瞬触れた唇と
スルッと無くなる一口サイズのロールパン。
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じっくり
噛み締めるように咀嚼した後
永瀬さんはゴクっとそれを飲み込んだ。
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食べた。
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食べてくれた。
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「…ど、どうですか？」
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永瀬さんの顔を
覗き込むようにして聞いてみると、
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永瀬『美味しくない。』
「……」
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永瀬『…んふふ、嘘つき。』
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作者名：ayu
| 作成日時：2020年10月19日 11時
