♯16 ページ17
天はゆっくりと思い瞼を開けて、辺りを見渡す。
「…っここは…?」
目前にあったのは、何処までも果てしなく続いていく蒼い海と…それに突き出すように面している崖。
そして…
『♪〜』
静かに流しながら歌う、片割れであり…弟である海。
天自身もいる崖の先端付近で、何かを祈るように歌う海は天に気付く様子もなく…
ただ、海を眺めていて…その背中は、何故か何時もより小さく見えた。
「…海。」
それを見て…天は考えるより先に、その背中に手を伸ばす。
何故かはわからない。
ただ…その背中を今追わなければ、きっと海は消えてしまう。
人魚姫が最後…泡となって、消えてしまったように。
そう思えてしまった。
故に、天は…海に消えて欲しくないと思った。
5年前、天が七瀬の家を出てから一度も連絡を取り合ってもいなければ…会ってもいない。
そんな相手でも、天にとっては大切な弟。
今にも海に落ちそうな危ない場所で、悲しそうに涙を流している弟を放置しておくことは出来ない。
そう心の底から思っているからだろう。
しかし…
天の手は、海には届かなかった。
そして…その刹那、海は崖から落ちてしまった。
『…すまない、天。』
『俺では…陸のヒーローになってやれないみたいだ。』
その背中に生やした、カラスの羽のような黒い悪魔の翼を一面に散らせて…
苦しそうな声で、悔しそうに悲しい言葉を紡いで。
「海…!待ってっ!」
「ボクは未だ…っキミに…伝えたいことが残って…っ!」
天は墜落していこうとしている海の手を掴もうと、手を伸ばすが…やはり届かない。
胸の中が後悔で真っ黒に染まっていくのを感じながら…天は再び意識を失った。
『♪〜』
感じたのは、先程は寒くて仕方がなかった身体が暖かく包まれているような感覚。
見れば、自身の肩には誰かの上着がかけられており…懐かしい歌声が聞こえてくる。
どうやら、自分はどこかの公園のベンチで寝かされているらしかった。
天に膝枕をして…
「…海?」
先程、悪夢の中で見た悲しげな表情とはまた違った顔をして歌っている弟。
海によって。
天の呼び声に、意識が戻ったことに気付いたらしい。
『…起きたか。』
少しホッとしたような顔をして、そう言い…ゆっくりと天を起き上がらせて…
買ってきてあったらしい暖かい飲み物を差し出し、言った。
『…タクシー、呼んどいた。何もなければ多分…ライブに間に合う。』
『…急ぐぞ。ファンを失望させるな。』
天のプロ意識を尊重した…
「ありがとう。」
海らしい…不器用な一言を。
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月(プロフ) - キャベツの芽さん» はじめまして!コメントありがとうございます!尊くんもちゃんと受け入れられていて、大好きだと言ってもらえる程だと知れて安心しました!本当にありがとうございました! (2019年5月24日 17時) (レス) id: f01d23ed14 (このIDを非表示/違反報告)
キャベツの芽(プロフ) - 初めまして|´-`)チラッ海くんも尊くんも大好きです!!これからも楽しみにしております!! (2019年5月24日 14時) (レス) id: 270caf8b44 (このIDを非表示/違反報告)
月(プロフ) - Suiさん» コメントありがとうございます!これからも海くんのことを温かい目で見守ってくださればと思います。 (2019年3月26日 23時) (レス) id: f01d23ed14 (このIDを非表示/違反報告)
Sui - 続きがすっごい気になります!更新頑張って下さい! (2019年3月26日 21時) (レス) id: 8fe2495ae6 (このIDを非表示/違反報告)
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