人形師【look back on the past】

知らない ページ8

スラム街で生きていた俺はひたすら盗みを働いた。

時に食料、時に金品、時に衣服を盗んだ。

その日に１つでも盗めたら良い方で、酷いときには何日も収穫なしの時が多かった。

空腹に耐えかねた日は死体の肉を貪った。

蛆の沸いた肉。
腐ってて、悪臭が口の中に広がった。

それでも生きていくために、人の肉を食った。

いつしか、血の味に慣れてそれが美味だと感じるようになった。

太ももが一番美味しい。

...いつのまにか、食料は人になった。

異常なのは分かってる。
でも空腹には変えられない。

幸い、スラムには餓死死体がそこら辺に落ちていたからそれに困らなかった。

いつも悪臭を放つ肉を頬張って、体を血まみれにして、それが骨になるまでしゃぶりついた。

子供はいいが、大人は食べきれなくて腐る...

蛆虫がわくのがもったいなかった。

だから、無理して胃袋に突っ込んだ。
そしていつも吐いていた。

血の臭いの嘔吐。
それさえもったいなくて口に入れた。

食べないと食べないと食べないと...
死んじゃう...

口に入れては吐くを繰り返していた。

いつの間にか、残った死体には蛆虫が、蠅が、集っていた。

しゃぶりついた骨を、投げ捨てようとして、
やめた。

骨。人間の骨。
似てる。人形の部品に似てる。

人間は、人形に、なれる？

どうしてそう思ったんだろうか。
そんなはずないのに。

でもこれは、良いことだった。

これをきっかけに俺はスラムのごみを使って、人形を作った。

父さんの作り方をまねて。
たまに、骨を使って。

それはスラムではそれなりに財のあるやつに売れた。

あぁ、父さん...
俺も人形作れたよ...

嬉しかった。
俺の人形を手に取ってくれたこと。

そして、認めてくれたこと。

毎日、人形作りに明け暮れた。
死体を詰まんで骨を取り出してゴミを寄せ集めて作った。

それを、三年。

手は何ヵ所も切れて、足には痕が残っていた。

それでも、金が溜まった。
ようやく、ここから出られる。

でも、俺はかつての娼館の前にいた。


目を閉じれば、あの時の悪夢が蘇る。


でも、母さん。嬉しそうだった。
あんなに蕩けた顔して、醜かった。


あんなの、やっぱり知らない。


手には金袋ではなく、数本のマッチ。

それを娼館の壁に擦り付けて火を灯した。

明るい橙色に俺の顔が写る。
隈が酷い。そして、すり傷だらけだ。

それから目を背けるように俺はマッチを落とした。



さようなら、母さんだった人。

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