人形師【look back on the past】

旅人さん ページ21

生きる理由が見つからない。

最高傑作もとんだ駄作だった。

俺は宗教都市に続く街道を歩いていた。

宗教都市にはもう入れない体だと思い出し、とたんに歩く気力を失った。

かつて、この街道は歩く人々で賑わっていたが今では馬車で颯爽と駆けていくのがほとんどだ。

そんな時、俺の目に人影が写った。



旅人...



気がつけば、俺はそいつに話しかけていた。

訝しげに俺を見つめるその目は、生命力に溢れていて、美しかった。

風に流れていく髪も、触れずとも体温を感じる肌も、どうしてだか魅力的だった。

でも、それだけ。
『普通』の人の魅力ってやつか。


俺は、物語を語るようにそいつに俺の過去を聞かせた。

特に面白くもない、
ひとりぼっちの人形師のお話を。

曖昧な笑顔で話を聞いてくれた旅人さんに俺はどうして彼女が怯えたのか問いかけた。


＿＿＿＿＿＿血を飲ませたからじゃないのか？


彼女みたいに怯えた目。

でも、何故か興奮する。
生きていると、感じさせる体温と瞳。

どうしようもなく、欲しくてたまらない。


＿＿＿＿＿＿＿決めた。
次の素材は、旅人さんにしよう。


するりするりと俺から逃げていく旅人さんがもどかしくてたまらない。

決め手は、俺を殺そうとしてくれたこと。

あのクソ女が言った。
俺が死ぬには、俺自身が作った人形に殺してもらう事だと。

結局、旅人さんが使った人形は偽物だったが。

それでも、殺そうとしてくれた。
俺を助けようとしてくれた。


嬉しかった。こんな感情何年ぶりだ？
同時に、もっと、旅人さんが欲しくなった。


旅人さん＿＿＿＿＿＿＿A。


お前を人形にできたなら、ずっと側に置いて、愛でてやる。

Aが欲しいだけの愛を、くれてやる。

だから、そのかわり俺を愛してくれ。


誰かに愛されることに酔ってないと
もう、やっていられないんだ。


Aは、俺を捨てたりしないよな？

だって、優しいから。
殺そうとしてくれたから。

あぁ...俺の愛しいA...

待ってろ。すぐにそっちに行くからな。






吹き付ける潮風が、やけに心地よかった。

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