アヤメのハンカチ 4【煉獄杏寿郎】

193.やきもち ページ43

　正直不安だったんだ。

　君が俺の話を受け入れてくれるかどうか。

　人間の心は見えぬもの。

　言葉や表情の微細な違いから感情を読み取る。


　先程の彼女の言葉を俺は信じる。

　
　Aが言うように、

　誰だっていつ命の灯火が消えるとも限らない。


　だからこそ、これからは限りある時間をAと過ごそう。

　たくさんの愛で彼女を包もう。


　神よ、それでもひとつだけ願うことがある。

　どうか、俺よりも長い命(とき)を、彼女に。




　もし、万が一、俺が君の目に見えなくなったとしても、

　俺はそばにいる。君の心の中で一番輝く星になる。



　帰路の道中。

　カランコロンとなる彼女の下駄の音。

　蒼に散りばめられた星屑。


　きっとそれらのせいだと思う。

　彼女を帰したくないと思ったのは。

　

「明日は休みか？」

「はい。」

「そうか。君は今も宿舎で？」

「はい。毎晩お世話になっております。」


　二人並んで星空を見上げる。



　宿舎ということは…
　

「宿舎というのは…その…柳田さんもいるのか？」


　俺の質問に彼女は首を傾げた。


「吉次さんですか？いませんよ。

　宿舎は皆さん女性ですし、一人一部屋あります。」


　そうか。そうだったのか。

　安堵する気持ちと同時に胸がチクリと痛んだ。


「…良かった。」


「何か？」


「いや！なんでもない！ただ…」


「…なんでしょうか？」


「下の名前で呼ぶような仲になったのだなあと。」


　なんだかモヤモヤした気持ちになっていると、

　Aは俺の顔を覗き込んできた。


「ふふっ。杏寿郎さん、妬いているのですか？」


　俺は悟られまいと背を向けて

「妬いてなどいない！」と言った。


「本当ですか？」


　Aはもう一度俺の顔を見ようと正面へと移動し、

　俺の頬を両手で包んで顔を彼女の方へ向けた。
　

　堪えきれなくなった感情は、俺の手を走らせる。



　不意に彼女の腰をグッと自身に引き寄せた。



「…妬いているさ。

　君と離れている間も、君が他の男と一緒にいる姿を考えては

　胸が張り裂けそうだった。」



　胸が早鐘を打つ音が聞こえる。

　肌で感じる。



　
　Aは手を下ろしてたじろぐが、

　そんなところも可愛くて…離してなどやれない。

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