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185.濡れた指先 ページ35

「ご心配には及びませんよ。

 私は元気で丈夫ですから!」


 Aは止めていた手を動かし、再び洗濯物を干し始めた。



 生家から宿舎の往復は必ずしも

 柳田さんがいるわけではないだろう。


 不意に脳裏に昨夜の鬼のことが浮かんだ。


「夕刻に出歩くのも一人では危ない。」


 彼女は気に留めることもなく大きなシーツに手を伸ばす。


「街灯がついていますし、早足で歩けば平気ですから。」


 恐れるのは鬼だけではない…



 彼女がシーツを広げようとした時、

 俺は勢いよく彼女の右腕を掴んで庭の端まで連れ出した。
 
 それから頭をぶつけることのないように

 自身の手で彼女の頭を抱えながらも、

 身体を塀に押しつけた。




「…こうして手を掴まれて

 人影のない場所に追いやられたら?」



「…っ」



「勝てないではないか。」



「勝て…ます。」



「…どうやって?男は手加減などしてくれないぞ。

 君だって怖い思いを忘れたわけではないだろう?」



「では、どうすれば良いのですか…」



「煉獄家に…」



「私は!!…杏寿郎さんが私といると辛いと

 そうおっしゃったから…

 それに…私だってあなたへの気持ちを

 なんとか断ち切りたくて…必死なのですよ。」



 Aの頬に涙が伝っていく。


 はじめてだった。彼女がここまで大きな声で反論したのは。



 真っ赤な顔をして、口の端は震えている。



 俺はなんて愚かなのだろう。

 彼女が心配なあまり、

 自分勝手な思いで強く言ってしまった。

 Aが怒るのは当然なことだ。


 俺は掴んでいた手を離し、

 彼女から一歩の下がると指で涙を拭った。



「…すまない。

 君の気持ちを考えられていなかったな。

 浅はかだった。許して欲しい。


 君には笑っていて欲しいんだ。

 もう今みたいなこと言わないし、しないから…

 だから泣かないでくれ…」



 Aは悲しそうな顔でその場を立ち去った。



 一人、庭で立ちつくす俺の指先には

 梅雨の雨ではない温かな雫が纏わりついていた。




 1番傷つけたくないのに、思いが強くなるほどに

 空回りしてしまう自分に苛立ってしまう。



「ふう…」



 落ち着け。起きてしまったことを巻き戻すことは不可能だ。

 この後、どうすれば良いかを考えよう。


 Aが幸せに暮らすために。

 俺ができることを…

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設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます♡ いつもコメントくださり、本当励みになります!これからの煉獄さんサイドの展開もお楽しみくださいね! (2023年2月3日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - こんばんは。お疲れ様です☺︎すみません。私が早とちりしてしまいました。続きドキドキしますが楽しみにしてます。完結まで見守っていきますね!新作もその時はぜひ拝読させて頂きますね♪ (2023年1月25日 22時) (レス) @page50 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん、ありがとうございます♡ 私の書き方が悪くてすみませんが、続編はなく完結いたします!次に移行するという意味でした…!ただ、まだ確定ではありませんが、新作を少しずつ考えていますので…いつかお知らせできるといいです💭 (2023年1月24日 19時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - 更新お疲れ様です!いよいよ完結ですね。最後まで2人の物語を見守っていきます。続編もあるとのことでそちらも楽しみにしてますね☘ (2023年1月23日 22時) (レス) @page49 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん!コメントありがとうございます。こちらこそ、本年もよろしくお願いいたします!更新を待ってくださる方が一人でもいてくださることが本当に幸せです。これからも、ときめく物語をお届けしていきますね! (2023年1月6日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年9月6日 22時

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