アヤメのハンカチ 4【煉獄杏寿郎】

179.鈍感な人 ページ29

【柳田吉次 side】


　あまりにもまっすぐな質問に驚いてしまったが、

　私はその心に応えようと、今までの自分のことを話した。


　Aさんはとても真剣に話を聞いてくれた。

　杏寿郎さん、あなたはいつもこうして彼女に

　話を聞いてもらっているのでしょうか？


　そうだとするならば、心の底から羨ましいと思う。


「暗い話になっちゃったね。ごめん、ごめん！」

「いえ、私から振ってしまった話なので。」

　眉が八の字のように下がっている。

「もう恋愛はいいかな…って思っていたんだけどね。」


　私たちのもとに注文していた料理が届く。

　出来立てのメンチボールのいい匂いが鼻をくすぐった。


「でも、目の前に現れてしまったんだ。」

「…はい？」

「…心から慕いたいと思う人が。」


「…え！？そうなのですね！

　誰ですか？私の知っているお方でしょうか？」


　どうしてこうも気づかないのでしょうか。

　瞳をキラキラと輝かせた彼女が愛おしくて、

　私は口元を手で押さえながらクスクスと笑った。


「あなたって人は鈍感なんだね。

　私が慕っているのはAさんだよ。」

「えっ？」

「驚いた顔も可愛いね。ちゃんとお話をしたいのだけれど、

　まずはご飯を食べてからにしようか。」

「は、はい。」



　ぼうっとしながらあんみつを口へ運んだ彼女の口元には

　餡がついていた。

「Aさん。ここ。」

　私が自身の唇の端を人差し指でトントンっと触って

　口元についていることを教えるも、

「…はい？」

　彼女は首を傾げて分からないよう。

　すると私は向かい側から手を伸ばして

　右手の人差し指で彼女の口元を拭うと、

　そのまま自身の口へと運んだ。


「あんみつの餡がついてた。」


　そう言って笑って見せると、突然Aさんの頬に

　涙の雫が流れ落ちた。


「Aさん？大丈夫？」


「…ごめんなさい。ちょっとお手洗いに行ってきます。」


　不意に流れた涙。歪んだ彼女の顔。

　とても辛そうだった。

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