171.頬を濡らすは雪 ページ21
「杏寿郎…さん?」
柔らかな声がする。
重い瞼をゆっくりと開けると、
褥から身体を起こしたAが瞳に映った。
カサカサと音がしたので自身の足の近くに目をやると、
胡蝶の鎹鴉が足に巾着をつけてこちらを見ている。
鴉の頭を撫で、巾着を手に取ると中を覗いた。
そこには頼んであった解熱剤が入っており、
"お大事に"とひとこと書かれた手紙もあった。
「…おはよう。すまない、ここで寝てしまった。」
「いえ、側にいてくださったのですね。
ありがとうございます。」
俺は巾着を持って立ち上がり、
Aの近くまで歩み寄ると彼女の額に手を当てた。
「まだ少し熱いな。
胡蝶の鎹鴉から薬は預かったから、
朝餉が終わったら飲んでゆっくり休むといい。」
熱は下がりきっていないようだが、
昨夜よりは落ち着いた様子だ。
薬を飲んで休養すれば、きっとすぐに良くなるだろう。
あまり長居をしてはいけない。
そう思って彼女の部屋を後にした。
*
はあっと息を吐くと白くなる季節が来た。
あの日からというもの、"いつもと変わらない"。
そうだ。いつもと変わらない。
Aの体調はすぐ回復し、今も働きに出ている。
俺は時々、家族の様子を伺うように
任務の合間を縫って生家へ寄った。
Aと言葉を交わすとしても、
挨拶やわずかな時間の世間話程度。
これで良いのかもしれぬ。
そう思うようになっていた。
今日は稽古を終えた後、
あの日置いてきてしまった隊服を取りに生家へと向かった。
隊服は数着あるが、ここのところ天気が悪いのに加え、
任務地で汚してしまったので替えが足りなくなっていた。
今日、Aは家にいるのだろうか。
冷えないようにしっかり食べているだろうか。
仕事は無理していないか。
そんなことを考えていると、冷たいものが頬を濡らした。
「ん?」
空を見上げると灰色の空から冷たい雪が落ちてきた。
不思議なくらい音がない世界に、
ただ、真白な雪が降り落ちていく。
通りで寒いわけだ。
稽古着のまま出てきたので寒さがこたえた。
勢いよく生家の扉を開けると、
ちょうどAが玄関を出ようとしたところだった。
目に飛び込んできた彼女は薄化粧をしていて、
赤い着物に身を包んでいた。
美しいと素直に思う。
61人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます♡ いつもコメントくださり、本当励みになります!これからの煉獄さんサイドの展開もお楽しみくださいね! (2023年2月3日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - こんばんは。お疲れ様です☺︎すみません。私が早とちりしてしまいました。続きドキドキしますが楽しみにしてます。完結まで見守っていきますね!新作もその時はぜひ拝読させて頂きますね♪ (2023年1月25日 22時) (レス) @page50 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん、ありがとうございます♡ 私の書き方が悪くてすみませんが、続編はなく完結いたします!次に移行するという意味でした…!ただ、まだ確定ではありませんが、新作を少しずつ考えていますので…いつかお知らせできるといいです💭 (2023年1月24日 19時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - 更新お疲れ様です!いよいよ完結ですね。最後まで2人の物語を見守っていきます。続編もあるとのことでそちらも楽しみにしてますね☘ (2023年1月23日 22時) (レス) @page49 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん!コメントありがとうございます。こちらこそ、本年もよろしくお願いいたします!更新を待ってくださる方が一人でもいてくださることが本当に幸せです。これからも、ときめく物語をお届けしていきますね! (2023年1月6日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時:2022年9月6日 22時