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166.ふたり、雨宿り ページ16

 



 巡視のため管轄内を歩く。

 日はまだ落ちる前で、外は少し明るい。

 現在のところ鬼の気配はしないな。

 空を見上げると、頭上に鴉の姿があった。


「異常ナシ!異常ナシ!」


 西の彼方へ飛んで行く要を見ていると、

 頬に冷たい雫が落ちてきた。


「ん?雨…?」


 そう思っているうちに、音を立てて雨が降り始めたので、

 雨宿りをしようと慌てて駆け出した。


 この辺りには確か小屋があったはず。

 巡視でよく回っていたため、

 周辺のことについては詳しかった。


 目的地が見えた時、俺の胸が音を立てた。

 先客がいたのだ。



 その女性も雨宿りをしているようで、

 瞼を閉じて、雨が弱まるのを静かに待っているようだ。


 少し距離を置いて、彼女の隣で足を止めた。


 まつ毛から滴る綺麗な雫。

 ほんのりと桃色に染まった頬。

 柔らかそうな唇。



 冷えていく身体に反して、胸は熱くなっていく。


 
 しばらくすると、女性はおもむろに瞼を開け、

 前を向いたまま話しかけてきた。


「…雨、止みませんね。」


 彼女はまだ、隣に来た人物が

 俺だとは気づいていないのだろう。


「…くしゅんっ!!」


 よく見ると、彼女はだいぶ雨に濡れたようで

 このままでは風邪をひいてしまうと思い、
 
 そっと自身の羽織を彼女にかけた。



 すると、彼女は慌ててこちらに顔を向け、

 目を丸くして驚いた。


「…杏寿郎さん!?」


「びしょ濡れだな!」


 平常心を装って、いつも通り笑ってみせた。


「なんだ…もっと早く声をかけてくださいよ!」


「ははっ!すまない!」


 恥ずかしいのか、

 彼女…Aは顔を真っ赤にして慌てふためいた。


 大丈夫だ。いつも通り話ができている。


「羽織、ありがとうございます。

 でも、濡れてしまいますから…」


 白い指先が俺の羽織を掴んで、

 その小さな身体から離した。


「羽織はまだそこまで濡れてはいなかったから、

 少しはあたたかいだろう。かけておくといい。」


 俺はそう言って、包み込むように羽織をかけ直した。



 Aは俺の手に目をやると、

 瞬きをしてすぐに目を逸らした。


「…どうした?」


「…いえ、何でもありません。」



 俺の羽織にすっぽりおさまってしまうA。

 身寄りがなく、記憶を無くしてしまった彼女。

 どんな境遇にも屈せずに咲く美しい一輪の花。


 
 俺にはもったいない。

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設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます♡ いつもコメントくださり、本当励みになります!これからの煉獄さんサイドの展開もお楽しみくださいね! (2023年2月3日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - こんばんは。お疲れ様です☺︎すみません。私が早とちりしてしまいました。続きドキドキしますが楽しみにしてます。完結まで見守っていきますね!新作もその時はぜひ拝読させて頂きますね♪ (2023年1月25日 22時) (レス) @page50 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん、ありがとうございます♡ 私の書き方が悪くてすみませんが、続編はなく完結いたします!次に移行するという意味でした…!ただ、まだ確定ではありませんが、新作を少しずつ考えていますので…いつかお知らせできるといいです💭 (2023年1月24日 19時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - 更新お疲れ様です!いよいよ完結ですね。最後まで2人の物語を見守っていきます。続編もあるとのことでそちらも楽しみにしてますね☘ (2023年1月23日 22時) (レス) @page49 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん!コメントありがとうございます。こちらこそ、本年もよろしくお願いいたします!更新を待ってくださる方が一人でもいてくださることが本当に幸せです。これからも、ときめく物語をお届けしていきますね! (2023年1月6日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年9月6日 22時

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