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162.せめぎ合う ページ12

 Aと別れてから数日。

 俺は生活の拠点を自身の屋敷へと変えて過ごしていた。


 朝、目が覚めて朧げに天井を見上げるも、

 屋敷のどこからも音がしない。

 炊事場へ向かっても、あの笑顔や綺麗な声はない。

 自分で選んだことだ。

 いい加減、諦めてはくれないのか。

 そう自身に問う。



 冷たい水で顔を洗うと、

 身も心も引き締めて隊服に身を包んだ。



 自分のすべきことに集中しよう。



「伝令!伝令!カアア!!」


 漆黒の翼を羽ばたかせながら降りてきた要は

 何やら文を携えている。


「うむ。ありがとう、要!」


「…杏寿郎、元気ナイ。」


「ん?そうか?俺はいつもと変わらない!」


「何年モ一緒ニイル。ソノクライ分カル。」


 要には見透かされているか。

 彼は機微に聡いからな。


「ははは!心配かけてすまない。

 俺は大丈夫だ!

 …要、ひとつ頼みがあるのだが、聞いてくれるか?」


 俺がそう言うと、要は首を傾げてこちらを見つめた。


「俺は少しAとの距離を置こうと思う。

 万が一、彼女に危険なことがあったら、

 すぐに俺に知らせてはくれないか?」


「…大切ナラ側ニイレバイイ。」


「そうだな。

 しかし、大切だからこそ、守りたいからこそ離れるのだ。」


 要は俺の言葉に空を見上げた。


「杏寿郎ガ決メタコト、キット意味ガアル。

 俺ハ主人ニ従ウノミ。」


「ありがとうな、要。」



 多くの言葉がなくとも、理解してくれる。

 その優しさに救われることもある。

 本当によくできた鎹鴉だと思う。俺の誇りだ。



 *


 花火大会の日から1週間が経った頃、

 任務の前に千寿郎に渡すものがあったため、生家に寄った。


 久しぶりの生家。

 Aは夕餉の買い出しに出掛けている時間だろう。

 長居はしないようにしよう。

 それがお互いのためだ。


 門をくぐり、玄関の扉を開けると

 千寿郎が足音を立てて走ってきた。


「兄上!おかえりなさい!」


「うむ!ただいま!

 千寿郎に渡したいものがあってな!

 新しい童話の本を手に入れた!」


「わあ!ありがとうございます!

 少し休憩されますよね?今、お茶を入れます。」


 弟に促されて、俺は居間へと向かった。

 玄関にAの下駄がなかった。

 やはり、夕餉の買い出しに出掛けたのだろうか。


 このまま会わずに、という気持ちと、

 一目会いたいと思う気持ちがせめぎ合っていた。

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設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます♡ いつもコメントくださり、本当励みになります!これからの煉獄さんサイドの展開もお楽しみくださいね! (2023年2月3日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - こんばんは。お疲れ様です☺︎すみません。私が早とちりしてしまいました。続きドキドキしますが楽しみにしてます。完結まで見守っていきますね!新作もその時はぜひ拝読させて頂きますね♪ (2023年1月25日 22時) (レス) @page50 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん、ありがとうございます♡ 私の書き方が悪くてすみませんが、続編はなく完結いたします!次に移行するという意味でした…!ただ、まだ確定ではありませんが、新作を少しずつ考えていますので…いつかお知らせできるといいです💭 (2023年1月24日 19時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - 更新お疲れ様です!いよいよ完結ですね。最後まで2人の物語を見守っていきます。続編もあるとのことでそちらも楽しみにしてますね☘ (2023年1月23日 22時) (レス) @page49 id: 4bde5e03bb (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» 美桜さん!コメントありがとうございます。こちらこそ、本年もよろしくお願いいたします!更新を待ってくださる方が一人でもいてくださることが本当に幸せです。これからも、ときめく物語をお届けしていきますね! (2023年1月6日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年9月6日 22時

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