とは言え、戦友よ［弐］ ページ38
＜東谷目線＞
私が部屋に入る前、少し動物の剥製を見てみたいな、と思って見ていた。そして、満足したので尾形達が居る部屋に行こうとすれば見慣れたとは言い難いものの、それなりに見た後ろ姿があった。
｢あら、どうしてここに土方が居るの？｣
思わず誰に問うものでもない、独り言と同意義の言葉が木霊する。この夕張には私と尾形、牛山の三人の筈。なのに、何故？と思っていると
｢聞いてなかったのか…この馬鹿｣
｢土方のじいさんは後から合流すると言っていただろ｣
尾形が一言余分ながらも説明してくれた。そう言えば……いや、聞いてない。聞いてない、筈…。
｢……土方歳三さん、アンタに話を持ち掛けたのっぺらぼうは、本当にアイヌかな？｣
｢ほう、そこまで見抜いていたか…｣
私の事を無視して話を進めたよこの傷の男。そう言えば名前聞いてなかったなぁ。何となく尾形の方へ赴き、脛を蹴っておいた。ブーツの蹴りは少し痛かったのかビクン！と動いたのを私は見逃さなかった。
｢……私の父は｢手を組むかここで殺し合うか、選べ！｣っ…」
幼い子の言葉を土方は遮るように語る。私の父？どういうことなのだろうか？
尾形も何か勘づいたのか、じっと幼い子を見詰めているが、端から見れば幼い子を狙う怪しい人にも見える。怖い、怖いわぁ…。
｢お前、何か失礼な事考えてるだろ｣
｢ｳﾞｪｯ!ﾏﾘﾓ!｣
尾形が読心術を使える説が唱えられそうなので、取り敢えず姿勢を正しておく。そうこうしている内にも話が進んでいたのか、いつの間にか食事と言う流れになっていた。えっ？と困惑するのは悪くないだろう。
＜杉元目線＞
｢家永、この鍋に椎茸って入れれるかしら？｣
｢それは無理そうです…｣
東谷と家永で鍋を作っている内に、俺ら男性陣はとある話題を話していた。
｢尾形ちゃん、Aちゃんって…誰か交際相手とか居るのかなぁ？｣
｢知らん、俺に聞くな｣
｢嬢ちゃんには居ないと思うぞ…ほら、こんな北海道に来る訳だしな｣
｢いいや？わからんぞ…いつだって先入観からの推察は宛にならんかった｣
｢俺はもっと太めな女じゃねぇと…｣
｢キロちゃんのタイプは聞いてないかなぁ？｣
随分と低俗な会話かもしれないが、俺達男にとって、この旅の中の女と言うのは結構大変な立場なのだ。まず欲の権化である牛山に、同じく遊郭に行く白石、後は状況によって危険が迫るだろう。
｢どうしたもんかねぇ…｣
はぁ、とため息を吐くのは仕方ないだろう。
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
