素敵で始まる楽しいお茶会 ページ3
「鶴見中尉殿、此方の女性は…?」
「大変興味深い御婦人だ。丁重にもてなすのが紳士であろう?」
鶴見中尉と呼ばれる、額当てをつけた軍人は、その部下であろう月島軍曹の質問に答えながら、洋式の甘味処へ東谷を案内する。東谷は成す術無くされるが儘だ。鶴見中尉は、東谷と面を合わせる様に向かいに座り、月島軍曹は鶴見中尉の側で休めの姿勢だ。
出されたお茶請けは団子とかすてら。どちらも和菓子に分類される。東谷はかすてらを一口、軽く口に含めば柔らかな甘さが広がる。これが正しく素朴な味わいとやらだろう、と誰しもが感じる一品であった。
「さて御婦人…まずは名前を、お聞きしたい」
いつまでも［御婦人］は嫌なのだろう。こう言う話し合いの場では、確かに無理もない。
ここで嘘を吐こうものなら、後に何らかの足が付いてしまうことを恐れたのか、東谷は正直に
「東谷Aよ。貴方は鶴見中尉と呼ばれていたわね…」
と情報の照らし合わせを平行に行いながら開示。
鶴見中尉は笑みを深めていた。
＜月島目線＞
「その通り…私は２７連隊の鶴見篤四郎。階級は中尉だ。」
鶴見中尉殿が名乗られ、ここから、お茶会と称した尋問が始まるのだろう。目の前の、東谷Aと言う女性は、落ち着いた様子だ。慣れているのか、と憶測を立ててしまうのは悪くない筈だ。
何者なのだろうか。
「A…聞いた事があるなァ……確か、あ〜、本土各地を旅する霊能師だと」
流石は情報将校と名高いお方だ。本土の事までをも調べている。
しかし、霊か……あまりにも非科学的だが、俺は信じている。何故ならば、俺も少しだけ、その霊を感じるからだ。
「あら、中尉殿に知られているなんて、何とも光栄な事かしら。」
「知っていますとも…えぇ、勿論。」
「意外と名が知れているのですぞ、A君。」
まるで探り合いだ。一言一言に、何処か緊張感を感じる。世間話のようなのに、自然と力んでしまう。
「それで、何を聞きたいのかしら?」
切り出したのは、東谷からだ。出されたお茶を口に含み、一息ついてから鶴見中尉殿に問う。かくいう俺もいまいちこの方の思考が読めない。東谷が霊能師だとは今しがた聞いた事だから、そう言う事ではないのだろう。ならば、何なのか…。
答えは意外で斜め上をいくものだった。
「ただ麗しいA君と話がしたかっただけですな」
「「は?」」
東谷と今だけ思考が一致しただろう。
何を言っているのだろうか、この人は…。
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
