第176話「男にとっての」 ページ34
「太宰さん……!?」
少女の背中の後方から聞こえた少年のその声は、驚いた様に黒髪の男に向けられていた。
男は少女と少年に優しく微笑むと、人形をぐっと掴んだ。
「君の魂が勝った。これで、街は大丈夫だよ。」
「危険です、太宰さん!空から敵の銃撃が……___!」
少年は切羽詰まった様子で男にそう云うが、依然男と少女は微笑んで居た。
男は「どうかな?」と微笑むと、手に持っていたスイッチを押した。
すると、あの奇妙な人形から白い煙が噴き出す。
其れは直ぐに辺り一帯を包んだ。
「此れは……?」
「飽和チャフって云ってね……熱感知センサーとかを無効化するものなの。しかも、煙幕だから視認も出来ない。只の時間稼ぎに過ぎないけど……でも、その価値は有った。……ですよね、太宰さん?」
少年は辺りを見回しながらそう云う。
少女は優しく微笑みながらそう云うと、男の方を振り向いた。
男は満足そうに頷くと、真剣な顔に戻る。
「……嗚呼。行くよ、いろは、敦君。此れは一時的なものだ。地下に一旦隠れるよ。」
男はそう云い、何時もの様に少女の手を掴もうと、手を伸ばした。
……けれど、少女は無意識の内に其れを避けると、少年を見ていた。
とても眩しそうに、幸せそうに、満足そうに。
少し目を細めているその横顔からは、花の様に優しく可憐に、けれど力強い印象を受ける。
男は少女のそんな様子に気が付くと、少し傷ついた様な様子で目を見開くと、何処か儚い笑みを浮かべていた。
第177話「少年にとっての」中島敦→←第175話「女王にとっての」????
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時