第170話「闇商人」夢主 ページ28
「……所で、次は何処に行くんですか?」
御機嫌に私の手を握ったまま、繁華街を歩いていく太宰さんの背中に、そう問いかける。
何時もの様に音が外れた鼻歌を歌っていた太宰さんは、微笑んだまま振り向き此方を見ると…
「知り合いの元に、ね。」
と、妖美に笑って見せた。
そんな太宰さんに、私は、少し速足になって追いかけながら問い返す。
「……太宰さんのお知り合い、ですか?」
「嗚呼。マフィア時代からのね。……闇商人さ。いろはもよく知っているだろう?彼はマフィアとも取引はするが、立場は常に中立で何より仕事が早い。その分代金は高いが、払うだけの価値は有る。」
「闇商人」という単語に、私は納得した。
この街の闇に通じる者の中で、闇商人と云えばたった一人を指す。
「闇商人」、西村信之。
その辺の冴えないサラリーマンの様な名前の彼は、噂に聞く、嘗ての「闇医者・森鴎外」の様な立ち位置で有り、その存在価値から、様々な組織から保護されている。
その手腕から、私のマフィア全盛期にはよくお世話になったものである。
そんな彼に会う……詰まり、仕事を依頼するとなるといよいよ太宰さんも本気を出し始めたのだろう。
「……成程、西村さんですか。……所で、太宰さん。何故あのお店に寄ったんですか?」
「嗚呼、其れは……」
本気を出し始めた太宰さんが立ち寄ったのだ。
何か重要な理由が有るに違いない。
そう思った私は、とても真剣な顔でそう問いかける。
例えば、マフィアか組合の追手が居るのに気付いたから、だったのかもしれない。
そんな事を考えていた私に帰って来た答えは……
「其れは、いろはに似合いそうな衣服が一杯有ったから、だよ。……うん、矢っ張り似合ってる。立ち寄って正解だったよ。嗚呼、正解だったとも。」
「……え?」
にこにこと、何時もの様に優しく微笑む太宰さんに、私は呆気にとられる。
「……もう、全く太宰さんは!本気を出すのかそうじゃないのか、よく分からない人なんですから!」
「いろは、御免。御免って!だから拗ねないでくれ給え……。」
口を尖らせて怒る私に、太宰さんは慌てた様子であった。
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時