第169話「逢引(仮)」夢主 ページ27
「……あの、太宰さん。」
「何だい、いろは?」
そう云う太宰さんは何時になく幸せそうで、全て其れで満足しそうになった。
……と、いけない。
そうじゃない。
「こんな時に、その…逢引を行っていて善いのでしょうか……?」
「うん?其れは勿論、善くないねぇ。後で国木田君にこっ酷く怒られるに決まっているとも。」
太宰さんはそう云うと、私の手を取り婦人服店に入るなり、愉しそうに私に服を当てている。
……私は、森さんに連れ回されぐったりしていたエリス嬢の気持ちが、少し……判った気がした。
「じゃあ何故この時期に?1か月も経たぬ内に状況は大きく変わる筈。其れを乗り越える事が出来れば、結果は如何で有れ事態は収束の道を辿る事になる筈です。」
「嗚呼、確かにそうだろう。……でも、その時いろはが生きて居られる保証が無いのだよ。Qが駒として碁盤に居座っている。……そう云えば、いろはなら幾らか想像が付くだろう?」
その言葉に、私は衝撃と困惑を覚えた。
そんな感情を隠すように、私は近くに有った綺麗な花の髪飾りに手を伸ばす。
其れを選んだのは近くに有ったからだけで有って、意図した事では無い。
……意図して選んだわけでは、無い、筈だった。
其れは、透き通る様な純白の花車の形を模していて……敦くんを、連想させ、思わず私は目を瞑る。
其れから、私は少し頷くと太宰さんに向きなおし、口を開く。
「……はい。太宰さん以外の誰もが、命の危機に瀕する事も。」
そう云った私を太宰さんは少し見ると、私の手の中に有った髪飾りを取り、会計を済ませるとそのまま私に付けた。
「……うん、似合っているよ、いろは。さぁ、行こう!」
「ちょっ、太宰さん!?」
満足そうにそう云ったかと思うと、太宰さんは再び私の手を取ると、ご機嫌に店を出て歩いていく。
何時になくご機嫌な太宰さんに、私は呆れながらも……小さな子供がはしゃいでいるように見えてきて、思わず笑みを零す。
こんな状況だからこそ……少し、肩の力を抜くべきなのかもしれない。
私は子供の様に笑う太宰さんに、そう思った。
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時