第159話「怪我」夢主 ページ17
「いてててて……」
「大丈夫ですか、太宰さん。太宰さんの異能がもっと他のものであったならば、与謝野姉さまに直して頂けるのに……」
私は、寝台の上に座っている太宰さんにそう云うと、近くの店で買って来た林檎を剥き終わり、切り分ける。
「大丈夫……って、よく云うよ。此処まで酷くさせたのはいろはだろう?私が気付かないとでも?」
「真逆。けれど、太宰さんも其れを望んで居られたのでしょう?」
私の言葉に、太宰さんは少し肩を竦めてみせると、其れから微笑んで居た。
「嗚呼、まぁね。……いろはも成長したね。前までのいろはなら、きっと気が付かなかっただろう。」
「……女王は、護るべき者を手にして、初めて真に女王となれるのです。……たったそれだけの事ですよ。」
「私には判らないが……そう云うものなのだろうね。」
太宰さんはそう云うなり、林檎を頬張った。
私は、ただ其れを見詰めている。
「護るべき者と云えば……敦君と会う約束をしていたのだよ。代わりに電話して来てくれないかい、いろは?念の為1日入院しないといけない様だしね。」
太宰さんはそう云うと、部屋の入口に立っていた看護婦さんを見、ウィンクした。
私は微笑みながら答える。
「太宰さんの仰せのままに。……其れから太宰さん、次はこういう作戦は許しませんからね。私は今回の作戦を失敗させる事も出来たのです。」
「……嗚呼、判っているよ。行っておいで。」
太宰さんは少し困ったように笑うと、其れから私の手を取り、手の甲に接吻する。
私は少し驚いて太宰さんを見詰めていると、太宰さんは何時もの様に優しく慈悲に溢れた微笑みを浮かべていた。
兎も角、私は黙って従うことにし、部屋から出ると敦くんに電話を掛ける。
……出ない。
もう一度、掛けてみる。
……矢っ張り出ない。
……何か、有ったのだろうか。
私は、胸騒ぎがしていた。
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時