第154話「金色夜叉と女王と虎」夢主 ページ12
「姐様、御覚悟を。」
私はそう云うと、駒を進め……
「……王手です!」
「参った。流石じゃ、いろは。私が負けるなど久々過ぎて逆に賞賛しか出来ぬ。」
「ふふ、姐様はありとあらゆる遊戯に秀でていらっしゃいますから。どうしても姐様に一度は勝利を収めたくて私も特訓を積んだのです。」
胸を張ってそう云う私に、姐様は悔しそうな顔をする。
……と、丁度その時、扉が開き……
「……いろはちゃん?」
敦くんは入ってくるなり、戯れる私達二人を困った様な顔で見ると呆れたようにそう云ったのだった。
私は言い訳が思いつかなかったので、目を逸らす事にした。
一方、姐様はそんな私に助け船を出すように(最も、その心算は皆無だっただろうが)敦くんに言葉を投げかける。
「……おや。童そなた一人かえ?珍しい客が多いのぅ……」
そういうとちらりと私を見る。
……矢っ張り、姐様に私を助ける気など無い。
よく知っている事だが……姐様はそういうお方である。
過去の私が太宰さん以外は如何でも良かった様に、姐様も鏡花ちゃん以外は知った事では無いのだ。
最も……だからこそ、私にとっては付き合いやすいお方なのだが。
「まぁ、童もゆるりと寛いでゆけ。見ての通り、幽閉の身ゆえ茶菓子も出せんがの。」
「……幽閉?鍵もない部屋で?いろはちゃんと将棋をしていたというのに?」
敦くんは、最もな疑問を口にする。
……というか、そうだ。
茶菓子と云えば先程外に行ったとき、姐様がお好きそうな和菓子を見つけて買って来たんだった。
けど今出したら雰囲気を壊してしまうだろうか。
……なんて一人蚊帳の外で的外れなことを考えていた私であった。
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時